研究課題/領域番号 |
15K00889
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
若林 あや子 日本医科大学, 医学部, 講師 (30328851)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 細胞外毒素 / コレラトキシン / 損傷関連分子パターン / HMGB1 / 樹状細胞(DC) / DCIR2+ DC / 共刺激分子 / 食物アレルギー |
研究実績の概要 |
前年度、コレラトキシン(CT)をマウスに経口投与すると損傷関連分子パターンであるhigh mobility group box 1(HMGB1)が血中と糞便中で増加することを明らかにした。そこでCT経口投与16時間後のマウスから小腸上皮細胞を採取し調べたところ、非投与マウスに比較して生細胞数の有意な減少、Annexin V+7-AAD+死細胞の割合の有意な増加、細胞質HMGB1+EpCAM+細胞の有意な増加が認められた。CTは小腸上皮細胞の損傷・死を促進し核タンパク質HMGB1の細胞質への移行と細胞外への放出を誘導すると思われる。 食物アレルギーに関わるTh2細胞の誘導には樹状細胞(DC)など抗原提示細胞のMHCクラスIIによる抗原提示とCD80やCD86など共刺激分子によるT細胞への刺激の伝達が必須である。特にMHCクラスII抗原提示に関与するDCIR2+ DCについて、マウス小腸や腸管膜リンパ節(MLN)における分布を調べたところ、小腸粘膜固有層とMLNにおいて多くのDCIR2+ DCが検出された。そこでMLNからCD11c+ DCを分離しHMGB1を添加して16時間培養したところ、DC上のCD80とCD86の発現はHMGB1添加量に依存して有意に増加した。またこの際HMGB1阻害薬であるグリチルリチンを添加するとDC上のCD80とCD86の発現は抑制された。 CTを経口投与し24時間後のマウスMLNのDCIR2+ DC上のCD80とCD86の発現は著しく増加し、これら活性化DCはOVA特異的OT-II T細胞を増殖させた。しかしCTと共にグリチルリチンを静脈または経口投与したところ、DC活性化とOT-II増殖能は有意に低下した。 以上のようにCTの経口投与により放出されたHMGB1は消化管のDCIR2+ DCを活性化しOVA特異的Th2細胞を増殖させることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度、CTを経口投与後のマウスの血中と糞便中で損傷関連分子パターンであるHMGB1が有意に増加することを示した。核タンパク質であるHMGB1はアポトーシス、ネクロ-シス、ネクロトーシスなどで死んだ細胞から放出されるため、マウス小腸の上皮細胞を調べた。その結果、CTを経口投与したマウスの小腸上皮細胞は明らかに損傷・死が促進しており、損傷した細胞における細胞質内HMGB1も有意に増加していた。CTによる小腸粘膜細胞の損傷と死の促進およびHMGB1増加を実験的に明らかにすることができたことは研究の大きな進歩であると言える。 次にこれらHMGB1が小腸のDCを活性化する可能性について調べた。まずTh2細胞の誘導に関与することが報告されているDCIR2+ DCの分布を調べたところ、マウス小腸粘膜固有層とMLNにおいて多く検出された。これらMLN DCを分離しHMGB1を添加して培養したところ共刺激分子の発現が増強し活性化が認められ、これはHMGB1阻害薬であるグリチルリチンの添加で抑制できることを確認した。 CTを経口投与したマウスMLNのDCIR2+ DCは著しく活性化しTh2細胞の増殖を促す。このDC活性化がHMGB1に媒介されることを明らかにするため、CTと共にグリチルリチンを静脈または経口投与した。その結果マウスにおけるDC活性化が抑制され、Th2細胞増殖反応が抑えられるという結果を得た。 以上のように今年度の研究においては、CTの経口投与による小腸上皮細胞死誘導とHMGB1増加、HMGB1によるDCIR+ DCの活性化、マウスへのHMGB1阻害薬投与によるDC活性化の抑制、といった事柄を実験的に明らかにすることができた。これらはいずれも食物アレルギーの発症・進行に関わる重要な発見であると考える。研究の進行状況はおおむね順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、Th2増殖反応を誘導する小腸DCIR2+ DCの活性化は、損傷関連分子パターンHMGB1が媒介することを明らかにした。今後、このHMGB1によって活性化されたDCがどのようにTh2反応を誘導し、食物アレルギーの発症・進行に関与するのか検討する。 例えば、卵白アルブミン(OVA)と共にCTを経口投与したマウスから小腸DCを採取し、OVA特異的Th2細胞であるOT-II 細胞と共培養し、OT-IIの増殖を観察する。増殖反応の度合いは、OT-II細胞をカルボキシフルオレセイン・ジアセテート(CFSE)色素でラベルし、フローサイトメトリーを用いて測定する。またこの時の培養上清におけるIL-4、IL-13といったTh2型サイトカイン量をELISA法によって測定する。 また、HMGB1阻害薬であるグリチルリチンをマウスに経口または静脈投与したとき、CTによって誘導されるアレルギー反応が抑えられるかを検討する。我々は以前、マウスにOVAと共にCTを経口投与すると、その後、MLNや脾臓のOVA特異的Th2細胞の増殖増加、血中OVA特異的抗体産生増加、OVA特異的遅延型過敏反応の増強などが観察されることを報告した。そこでマウスへのOVA・CT経口投与の際、抗HMGB1阻害薬であるグリチルリチンを経口または静脈投与し、その後のOVA特異的Th2細胞増殖、血中OVA特異的抗体産生、OVA特異的遅延型過敏反応が抑制されるか否かを検討する。 グリチルリチンは薬用植物である甘草に含まれる成分であり、古くから抗炎症作用・抗アレルギー作用があることは知られていた。今後の研究でグリチルリチンがHMGB1の阻害によってアレルギーの予防や緩和に効果があることを示すことは、アレルギーの治療の発展と促進につながる可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度研究計画当初は、OVA特異的Th2細胞増殖時のサイトカイン測定についてELISA用試薬を購入して行う予定であった。しかし研究の過程で、CT経口投与後の小腸上皮細胞死検出や細胞内HMGB1について調べる必要性が出てきたため、それらの検出試薬を購入し、一部の実験に変更が生じた。そうした中で、若干の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度の研究によってDCの活性化におけるHMGB1の関与が明らかになり、次年度の研究の方針と計画を明確に立てることが可能となった。次年度の研究費使用は予定に沿って円滑に進むと考えている。必要な器具や試薬を研究計画に沿って購入し、適切に実験を進めていく所存である。研究費を社会に還元すべく大切に計画通り使用させていただきます。
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