研究課題
高齢者のサルコペニアは、加齢とたんぱく質低栄養により発症する。その際、高齢者特有の慢性炎症が症状を助長する。当研究の目的は、炎症抑制効果を有する食素材(乳清たんぱく質分解ペプチド(乳清ペプチド))が、骨格筋の炎症を抑制し、筋たんぱく質合成促進および筋肉量減少抑制を促進するかを動物モデルで確認することである。初年度は、筋損傷レベルをコントロールできる再現性の高い動物モデルを構築することを目的とする。カルディオトキシン(CT、コブラ毒に含まれる筋損傷ペプチド(分子量6,693))をマウス腓腹筋に筋注し(10mM溶液100μL)、筋損傷を誘発した。CT投与24時間後筋を摘出後の病理組織観察により、乳清ペプチド含有餌摂取群で筋損傷が軽度することが判明した(カゼイン投与群と比較)。また、炎症に伴う筋浮腫の程度を示す筋重量は、乳清ペプチド摂取により有意に軽減した。血漿中のIL-6(炎症性サイトカイン)濃度を測定した結果、乳清ペプチド摂取群で有意に低い結果を得た。次いで、CT投与後24時間以内の筋損傷の程度を観察した。CT投与2時間後に浮腫が形成され、24時間まで持続した。浮腫の程度は、乳清ペプチド投与により有意に軽減した。また、血漿中のIL-6濃度は、投与2時間後に最高値に達することが分かった。これらの結果は、CT投与による骨格筋損傷は数時間以内に成立する炎症により誘発されることを示す。これまで、CT投与による骨格筋損傷モデルは、CT投与数日後の損傷修復を観察した結果についての報告がある。CT投与後短時間の骨格筋の炎症および筋損傷成立が観察された例は今回が初めてと思われる。また、乳清ペプチドが骨格筋の炎症を抑制する効果を有することを示すのも初めてである。再現性についても問題なく、筋損傷モデル系の構築、および乳清ペプチドの骨格筋炎症・損傷抑制効果も確認できた。
2: おおむね順調に進展している
27年度は、乳清たんぱく質分解ペプチド(乳清ペプチド)摂取による骨格筋の炎症抑制を観察するために以下の3項目の検討を予定した。1)動物モデルの構築、2)乳清ペプチド摂取法の検討、3)13C呼気試験が骨格筋のたんぱく質代謝測定に利用可能かの検討。1)動物モデルの構築は、予定通りの検討を行い、期待通りの結果を得た。2)乳清ペプチド摂取法の検討は、標準餌であるAIN-93Gに含まれるたんぱく質を乳清ペプチドに置き換え摂取させることにより効果が確認できた。よって、乳清ペプチドの微細な摂取量の検討は必要であるが、骨格となる結果は得られた。3)13C呼気試験が骨格筋のたんぱく質代謝の測定に利用可能かを検討する課題は、13C標識アミノ酸を経口投与したラットの呼気を採取し、アミノ酸代謝を経時的に測定することが可能であることを確認でき、計画通りの進行となった。
乳清ペプチドによる筋組織内での炎症抑制効果、および筋修復過程への影響の詳細な解析を開始する。骨格筋のたんぱく質代謝についての詳細な検討を開始する。その内容は下記のとおりである。1)炎症、筋損傷、筋再生の解析 ―― 炎症の指標は、血液中、および筋組織中の炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6、IL-1)とし、ELISA法により炎症レベルを判定する。病理組織学的観察によっても判定する。筋組織の破壊の程度の評価は、筋組織重量、体積を比較する。また、血中クレアチンキナーゼ、乳酸脱水素酵素によっても判断する。筋再生の進行過程の検出には、幹細胞から筋繊維が形成される過程で発現するたんぱく質の種類を同定することにより行う。具体的には、MyoDやSyndecanなどを免疫組織学的に検出する。2)筋損傷後の骨格筋のたんぱく質代謝の解析 ―― 分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)は、たんぱく質合成の基質であるだけでなく、エネルギー源として骨格筋で特異的に利用される。骨格筋のたんぱく質合成が促進された状態では、エネルギーとして消費される際に排出される分岐鎖アミノ酸由来のCO2の比率が低下する。非放射性同位体13C標識分岐鎖アミノ酸を投与し、経時的に呼気中の13C-CO2を測定し、その変化によりたんぱく質代謝を観察する方法を検討する。
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