高齢者のたんぱく質合成能低下と慢性炎症が、サルコペニアを進行させると考えられている。たんぱく質合成促進と慢性炎症抑制が、サルコペニア予防に必要である。2015~2015年度は、乳清たんぱく質が骨格筋の炎症抑制効果を示すことを確認した。2017年度は、乳清たんぱく質のたんぱく質合成促進効果について検討した。 たんぱく質合成の制御にmTORが中心的な役割を果たしている。mTORには2種類の複合体mTORC1とmTORC2があり、mTORC1はたんぱく質合成制御に、mTORC2は細胞機能維持の制御に関係する。複合体特異的サブユニットとしてRaptor(mTORC1特異的)とRictor(mTORC2特異的)が存在する。また、mTORC1の活性化には、mTOR本体たんぱく質のリン酸化が必要である。 カゼインを摂取したマウス群(CP群)と比較し、乳清たんぱく質摂取群(WP群)では、腓腹筋のmTOR本体の遺伝子発現レベルは、有意に高い結果となった。Raptorの遺伝子発現レベルの比較により、CP群と比較し、WP群ではmTORC1のレベルが有意に高い結果となった。一方、Rictorの遺伝子発現レベルは、CP群とWP群との間で差は認められなかった。乳清たんぱく質摂取によりmTORC1レベルが上昇しておりたんぱく質合成が促進されていることを示す。 また、腓腹筋のmTORのリン酸化レベルを、Western blotting法により検出した。CP群と比較しWP群でmTORのリン酸化レベルが有意に高い結果であった。この結果は、mTORのリン酸化のレベルでも骨格筋のたんぱく質合成が促進されていることを示す。 今回の結果は、乳清たんぱく質は、骨格筋の炎症抑制効果(2015~2015年度の成果)に加えたんぱく質合成促進効果を持つことを示し、サルコペニア対応食品の開発の基盤を提供するものである。
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