平成30年度は,平成27年度からの研究成果を整理し冊子にまとめるとともに,「対象/視点」(何をどこから観るか)についての枠組みを再検討した。 研究成果については,第一に,理科教育における「視点移動能力」の議論を参照し,数学教育が担うべき課題を検討した.また,これとあわせて,天文現象を題材とする問題を開発し,「対象/視点」の枠組みで教材を検討すると共に,授業における生徒の活動を考察した.授業で取り上げた問題は次の3通りである.問題1「シドニー(南半球)では,太陽は西から昇り東に沈む」というのは正しいか?.問題2『シドニーでは,太陽の動きは□から昇り□を通って□に沈む.この動きは「時計回り/反時計回り」である(□も考える)』.問題3「札幌と那覇で北極星を観ると,どちらの方が高く見えるか」.概括すれば,いずれも,「地球の外に視点をおいて太陽(北極星)を見る自分を想像すること」が必要であり,それを頭の中で行うことが難しいから「地球儀等を用いて対象と視点を可視化する」活動を想定している. 第二に,立体模型の観察を取り入れた教材の扱いと授業を考察した.授業で扱った問題は「立方体が六角形に見えるとき,立方体の対角線の実長が表れるか」を考えるものである.また,これに対して,「立方体はどのように見えるか」という問題から出発し,透視図の見方も取り入れて視点を意識化する授業が提案された.これらの問題の扱いについて,授業記録や生徒の活動を考察した. 以上の事例から,「対象/視点」の枠組みは,教師の授業計画においてその変容を意識化する(すなわち空間の想像力育成を目標に位置づける)役割を果たし,実際の授業においては計画した「対象/視点」とその変容を生徒の活動として顕在化できたかを評価する役割を果たすことが示された.また,今後の研究のために「対象/視点」の枠組みを再検討し,より単純化することを提案した.
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