研究課題/領域番号 |
15K00925
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研究機関 | 長岡造形大学 |
研究代表者 |
後藤 哲男 長岡造形大学, 造形学部, 教授 (30278056)
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研究分担者 |
飯野 由香利 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (40212477)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 基礎教養 / 建築教育 / 環境教育 / 領域横断型研究 / 1/10組立模型 / 耐震と制振の振動実験 / 壁材の断熱実験 / 省エネ |
研究実績の概要 |
本年度は過去9年間の研究実績を評価していただき、名古屋建築家協会が主催する「ゴールデンキューブ」特別賞を受賞することができ、また日本建築学会においても、日本建築学会教育賞(教育貢献)を受賞した。国民的レベルでの防災教育を実践する必要性を認められている。糅てて加えて当該受賞はこのような教育の継続性を求めているようであり、改めて、継続性の維持も課題の一つに加わったといえる。 本年度は7・8月に長岡市立山古志中学校(1年生)及び長岡市立北中学校(3年生)、11月には長岡市立青葉台中学校(2年生)に対し講座を開設した。また、高校では新潟県立長岡工業高等学校の建築系の生徒に夏休みの3日間(午前3時間、午後3時間)を連続して一連のコンテンツの体験学習を実施し、新潟県立長岡農業高等学校の生徒にも同様の講座を、時間を短縮して行った。三条市の「わくわく科学フェスティバル」にも出展したが、小学生に対してイベント的な色彩が強くなった。以上、小学生から高校生までを対象として、平成28年度は推移したが、特に高校生を対象にした3日間は現状開発されているプログラムを全て試す機会であったことに意義を見いだした。 理解度を検証するために節々でアンケート調査を行っており、生徒たちの習熟度をチェックすることとしている。当該アンケートは新潟大学の飯野研究室の学生の貢献が大きく、長岡造形大学と新潟大学のコラボレーションはうまく機能しているといえる。 ■研究発表及び報告書 7月に日本建築学会北陸支部大会(福井)にて2本の発表(後藤、飯野、広川連名)、8月に日本建築学会大会(福岡)でも2本の発表を行っている。また、長岡造形大学研究紀要にも発表している。また、新潟生活文化研究会への投稿及び日本家庭科学会でも発表(飯野、広川)を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
講座で使用している模型は一定期間使用しているために接合部にガタが生じているが、耐震筋交いや構造用面材を挿入して強さを確認することは従来通りである。さらに、起振装置に載せて揺らすことにより、講座に参加する生徒は性能のよい家の挙動を確認する。このような流れは概ね完成の域に来ている。さらに、制振筋交いを試作しているが、この筋交いは三角形のフレームの1辺にバネを仕込んだもので、最初横力を受けると振動を開始する。このバネはフックの法則に従い振動を開始する。バネ定数をkとし、質量をmとすると角振動数はw=√(k/m)となり、周期はT=2π√(k/m)となる。このことはバネ定数と建物の質量が決まれば固有周期が確定することを意味し、制振筋交いが建物の固有周期と一致することがないように調整する必要があることがわかる。また、質量は全体の約20%程度を選択し、重りは摩擦面を良く磨いた楓材、ステンレス、テフロンの板で試している。 建築室内環境では熱環境のプログラムに引き続き、太陽光の日射と遮蔽についてまとめている。第一に室内を明るくしている要因について考察を加える。天窓、高窓、側窓の三種類の同じ大きさの窓を1/10模型にセットして、太陽光と見立て、開発した移動装置上で動かして、室内の照度を照度計を用いて実測する。これは、光について中学生が習う理科との兼ね合いを考えてのカリキュラム作りとなっている。また、高窓や天窓の有効性についても目視と計測結果から導き出せるようにしている。これらの動作は、はじめ「推測」「実験」「考察」という順番で推移するが、はじめの「推測」の部分を如何に生徒から引き出すかが鍵となる。また、季節や日時の違いによる太陽の室内環境に与える影響を模型内に入る直射日光を観察することにより、日射遮蔽の各装置の有効性を導き出す。以上のように、領域横断型のカリキュラム編成が可能となってきている。
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今後の研究の推進方策 |
中高生を対象にした領域横断型のこのカリキュラムは、大学教育で取り組む内容を体験型と理論型を如何に合致させ、編集するかと同じである。ここでは建築教育で教えたい内容をすべて噛み砕いて表現することを目標とし、すべて体験型に変更する努力をこれからも追及していく。構造の領域では制振筋交いの開発をしたが、その筋交いによって規定される固有周期と地震の周期との関係の説明と建物の挙動の説明、あるいは建物上に重りを置くことによって、その重りが振動する周期と建物の固有周期と地震の周期の関係等と制振の説明、また免震のための模型装置の開発とそれを説明することなどが課題となる。建築環境領域では、遮音や防音を分かり易く説明する実験装置と実験の開発、室内の空気の流れ等を可視化して、化石燃料に頼らない家の仕組みの実験装置等について分かりやすいカリキュラムを作ることが求められている。それと同時に本研究は建築教育を一般基礎教養ととらえることでもあることから、体験型学習を通して如何に知識を身につけさせるかが今後の研究課題といえる。「住」教育は小、中、高校まで家庭科の枠内で教えられているが、その主旨は「良き家庭」を作ることである。しかしながら、近年人口が都市に集中し、ひとたび大規模災害が起こると大きな被害がでることが予測され、防災教育の必要性が認識され、様々な研究がなされている。家庭科における「住」教育の領域ではそのことはよく理解されているが、建物の専門家が少ないあまり、具体的な建築の仕組みや防災に対する備え等に関する授業を開設することができる人は少ないと聞く。本研究で開発されている教材は、小、中、高校の家庭科とタイアップすることで家庭科を担当する教諭の補助にもなり得るものであり、活きてくるものと確信している。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は工夫を重ね、新たな実験装置を制作したため物品費がかかったが、平成28年度は実験装置の改良と建築講座を実施したため、物品費の支出をおさえることができた。なお、平成28年度は講座運営のためのTAの費用等及び成果発表のための日本建築学会やシンポジウムへの参加費がかかった。平成29年度も平成28年度と同様の研究実施計画としているため、資金を留保した。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究は次年度も「建築講座」を長岡市内3中学校及び三条市の「わくわく科学フェスティバル」において実施することを計画している。それについては新しいカリキュラムの開発も伴っており、3年間の研究の集大成とした「建築講座」にする予定である。そのための実験装置の開発費用や、講座を行うためのTAの人件費が必要となる。また、本年度の研究成果を発表する場として、日本建築学会北陸支部大会(長野)、日本建築学会大会(広島)、日本家庭科学会(東京)などへの参加を予定している。そのための旅費や宿泊費が必要となる。平成29年度は研究の最終年度であるため、十年に及んだ中学生を対象にした建築講座のまとめ作業をする予定であり、その報告書を作成することとしている。
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