研究分担者 |
川添 充 大阪府立大学, 高等教育推進機構, 教授 (10295735)
高橋 哲也 大阪府立大学, 高等教育推進機構, 教授 (20212011)
江見 圭司 京都情報大学院大学, 応用情報学研究科, 准教授 (10339989)
亀田 真澄 山陽小野田市立山口東京理科大学, 工学部, 准教授 (10194995)
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研究実績の概要 |
前年度に続き、主として、動画教材の追加・修正版の開発を行った。教材の授業利用についての学生へのアンケート結果を分析し, より具体的なものでないと動画学習には向かないことが明らかとなってきた. 特に, 対象となる学生の所属する学域・学類によって偏差値や学習姿勢の指向性が相当程度異なり, 「教材そのものを利用しようとしない」, 「見ても理解できないとすぐあきらめる」, 「何度見てもやはりわからない」等効果の視点から問題点が浮かびあがってきた. 数学教育において海外でもPlaxeology(理論と実践)の視点が注目されるが, 反転学習教材の開発においても, この視点は非常に重要であることがわかってきた. 抽象的な内容の教材は最初から受けいれようとしないケースが多く見られ, アンケートでももっと具体的な例をという要望が多い. 大学数学における反転授業の展開はまだ数少ないが, 実際に行って一定の成果があると思われるケースは多くの場合, 微積分などの概念理解に多くは要求しない事例と考えられる. 一方, 線形代数においては, 特に後期の内容の場合, 抽象的な内容が非常に多く, 数学科でない学生には, 動画視聴を含めた動機付けが期待できない. これまでの考察から, 目的意識を持った理解は動機付けられた実践によって得られると考えられ, 反転学習教材においてはより具体性のある内容を優先して開発・利用すべきであるという方向性が得られた. この他, 授業支援システム上のオンライン小テスト問題の追加・改良を開発した動画に沿って行った。その他, 学生のレベルに合わない教材について, その修正や追加説明用の動画の作成, 基本的な問題の開発を行った. また, 今後の方針の参考とするための授業アンケートも行い, 学習分析のためのデータの収集を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究においては、大学初年次専門基礎の数学科目である微積分学と線形代数のうち、線形代数を主な対象として反転授業の教材開発と授業モデルの構築を目的としてきた。申請者は本補助金を受領する以前においては工学域対象の線形を通年クラスで受けもっていたが、本研究開始以降、始めて受けもつ学域・学類のクラスで, 工学域よりも学生の理解力という点において平均的に有意に問題のあるクラスが対象であった. さらに担当したのが後期における抽象度の高い線形代数IIのコースのみであり, 前期内容の教材開発に時間を割くことができなかったという問題もあった. このように, 受けもつ授業(コース)環境が研究にとって適切ではなかったことが本研究の遅れている最大の要因である。 さらに加えてスマートフォンを活用する上でのICT環境の問題があげられる. スマートフォンを使用して学生が動画をダウンロードする場合, 主な学習環境であると考えられる大学学内において, WiFiに接続できなかったことは大きい. 授業内では手持ちの機器を用いて若干のサポートができたが, それ以外でのダウンロード環境を適切に構築することができず, 動画利用を強く推進させることができなかった. また, 授業支援システム(LMS)はMoodle を使用しているが, スマートフォンでの利用に最適ではない環境であり, オンライン小テスト形式での確認問題が解答欄の一部が表示されないなどの問題に直面し, 学生側の利用意欲が低下する原因の1つにもなった. また, 対象学生が指示を聞かずオンライン小テストなどを実施しない学生も一定割合存在し, 授業運営上に膨大な時間と労力を費さざるを得なかったことも遅れている要因である.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の今年度においては、ようやく本来対象と想定していた工学域向けの線形代数授業を通年において担当する。これまでの多大な失敗と苦労を活かして、動画内容をまず具体性の高いものへと修正や補充を行っていく. 特に前期の行列に関する基礎的な内容の動画開発がまだ手付かずであり, スライド作りからの膨大な作業になるが, 動画作成に取り組む予定である. また, 動画を視聴することによって受験可能となるような予習課題としてのオンライン小テスト(Moodle の多肢選択問題や STACK の問題)を大幅に拡充する. 本学ではMATH ON WEB というe-Learning が動いているが, そのコンテンツをMoodle 上に移植し, 活用していく. 前年度の研究打ち合わせにおいて, 意見交換したトレント大学のマルコ・ポラーネン氏も反転授業に取り組んでいる研究者であるが, 氏も曰く動画はなかなか学生が視聴しないということで問題とのことであった. しかし, ゲーミフィケーションをうまく利用すれば学生のモチベーション向上を計ることが可能であろうとの考えであった. 申請者も, 今年度においてはゲーミフィケーションの視点からオンライン小テストを含む授業支援システムの機能を活用したいと考えている. 方法として, 動画視聴アンケートや簡単な視聴確認アンケートでもたまるポイント制を導入し, 成績評価点にある一定の割合で組み入れるというものである. これにより, 学生の学習意欲が向上し, 動画視聴をはじめ, 予習課題などを積極的に実施してくれるものと予想している(現在のところうまく行ってるように見える). 今回実践する授業は同じ学類の2つのクラスのうちの1つであり, 比較検証も可能であるので共通の定期試験問題により効果検証も行ってみたいと考えている.
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