研究課題/領域番号 |
15K00933
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
右近 修治 東京都市大学, 共通教育部, 講師 (60735629)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 力学概念調査(FCI) / 学習姿勢調査 / 科学的推論能力 / 半構成型聞き取り調査 / 問題解法スキル / ポリヤの手法 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,理工系大学初年度物理教育の現場で生じている事実の調査に基づき,学生個々の学習過程を効果的に支援することのできる教材群を開発し,授業を改善するための具体的手段を構築することである。そのために伝統的授業,学生間および教師学生間の相互作用を重視したインタラクティブな授業のそれぞれにおいて,学生は授業や教材群に対してどのような態度で臨み,どのような思考過程を経て物理を把握するのかを,学生に対する聞き取り調査によって分析する。 平成28年度には連携研究者,研究協力者らと,計3回の研究会(平成27年度には計6回)を開催し,東京都市大学工学部で実施した1.基礎学力調査,2.力学概念調査(FCI)プレ調査およびポスト調査,3.簡易MPEXによる学習姿勢調査,4.CLASS学習姿勢調査,5.ローソンテストによる科学的推論能力調査,それぞれの分析と結果について検討した。また,平成27年度に続き物理学(1)(2)(力学分野)受講生からの聞き取り調査をボランティア学生10名について実施し(平成27年度は11名),ビデオ画像記録,筆記記録を連携研究者,研究協力者らと共に解析した。平成27年の調査では,個々の学生が持つ問題解法スキル,および問題解法にポリヤの指針を活かすことのできる能力は,通常テストによる成績や学生が抱く物理に対する学習姿勢との関連よりも,物理の概念的理解度と強い相関を持つという結果が得られている。平成28年度調査においても,概念的理解度との関連が強いことを補強するデータが得られる一方,学生が物理学に対して抱く学習姿勢や学習意欲との関連についても注意を払う必要があることを示唆する結果が新たに得られている。さらに通常クラスとアクティブラーニング型の授業それぞれにおける力学概念プレ,ポスト調査を比較することができ,後者の質的違いが明らかになりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記目的を遂行するため,東京都市大学工学部1年生の物理学(1)(2)(力学分野),同リメディアルクラス,物理学概論受講者を平成28年度調査対象とし,1.基礎学力調査,2.力学概念調査(FCI)プレ調査およびポスト調査,3.簡易MPEXによる学習姿勢調査,4.CLASSによる学習姿勢調査,の4つを統計調査として平成27年度に引き続き実施した。さらに,物理学概論受講者には物理学電流回路概念評価問題(ECCE)プレ,ポストを実施した。また,物理学(1)(2)(力学分野)履修者への聞き取り調査も平成27年度に引き続き実施し,調査対象者は21名に達した。こうしたマクロな統計調査,ミクロな聞き取り調査を統合し,理工系学生の物理学に対する思考過程や学習態度,成功している者と困難を抱いている者の違いを示す要因が明らかになりつつある。 物理学(1)(2)(力学分野)は,授業中に小規模な演習,話し合い活動等を取り入れてはいるが,いわゆる伝統的講義形式の授業である。その一方,物理学概論の授業はいわゆるアクティブラーニング型の授業である。28年度については,前者と後者とのFCIのプレ,ポストによるゲインの質的違いを検証することができた。本研究課題の一つに伝統的授業とアクティブラーニング型授業,それぞれについての分析が挙げられているが,その研究に踏み込むことができた。しかし後者についてサンプル数(登録学生数)が12名と少ない点に問題があり,29年度調査に期待したい。なお,伝統的講義とアクティブラーニング型講義による学生の変容の質的違いについては平成28年3月に大阪大学で開催された第72回物理学会領域13において発表されている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度,28年度に東京都市大学工学部1年生に対して実施した基礎学力調査,力学概念調査(FCI),簡易MPEXによる学習姿勢調査,ローソンテストによる科学的推論能力等の各種統計調査,また物理学受講者の学習姿勢や問題解法方略を調べるための個々の学生に対するインタビュー調査等の結果から,理工系初年度物理受講者の物理学に対する思考過程の特徴が,現在明らかになりつつある。29年度においては,さらにデータを蓄積して研究の信頼性を高め,その調査結果を連携研究者,研究協力者と共に物理教育研究の論文としてまとめる。一方,研究で明らかになりつつある理工系初年度生の実態に沿った理工系物理学教育の教材開発も本研究の研究課題となっている。連携研究者,研究協力者と共に検討し,大学入門物理の教材開発を進め,順次公開する予定である。そのための手立てとして,連携研究者,研究協力者とのミーティングを従来以上に強化し,他の研究グループとの情報交換を密にするとともに,現在,国内外で使われている教材を精査検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
発生した次年度使用額(B-A)は,2017年3月に大阪で開催された第72回物理学会への研究連携者の参加日数が予定よりも減少したことにより,出張費として確保されていた額が支出できなかったことによるものである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度においても従来通りの連携研究者の出張費が確保されるが,発生した次年度使用額(B-A)はその財源の一部として活用する予定である。
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