本研究の目的は,理工系大学初年度物理教育の現場で生じている事実の調査に基づき,学生個々の学習過程を効果的に支援できる教材群を開発し,授業を改善するための具体的手段を構築することである。そのために東京都市大学工学部の初年度生に対して3年間にわたり基礎学力調査(計2146名),MPEX簡易版による学習姿勢調査(計2146名),FCI力学概念調査pre(計1040名),post(計745名),半構成型聞き取り調査(計34名)を実施し,合わせてインタラクティブな授業の記録を取った。これらの分析調査から次の点が明らかとなった。 (1)学生が所属する年度・学科を1グループと見なし,9学科3年間から27グループを構成したところ,各グループの基礎学力調査結果とMPEX簡易数値評価との間には強い相関があることが見いだされた。 (2)FCI力学概念調査は学生が持つ力学の概念的理解度を測定するばかりでなく,学生がどのような誤概念を持っているかを診断する役割がある。FCIによって同定される誤概念の各カテゴリーに対し,クラスの誤概念最大占有率を求め,それがFCIpre,postでどのように変容するかを伝統的授業クラスと,インタラクティブな授業クラスにおいて調査したところ,両者の概念変容に質的違いが生じていた。(3)面接対象学生が問題を解く過程の記録から,問題解法スキルを評価したところ,FCIpostと強い相関があった。しかしFCIpost8割以上の学生には相関がみられなかった。問題解法スキルには一定以上の概念的理解度が必要ではあるが,概念的理解だけでは問題解法スキルが身に付かないことが示唆される。(4)学生どうしの討論を主体とした授業である相互型演示実験授業(ILDs)において,学生の発言記録を取り,分析したところ,学生の概念変容のプロセスや特徴が明らかになった。
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