研究課題/領域番号 |
15K00966
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
吉冨 友恭 東京学芸大学, 環境教育研究センター, 准教授 (20355829)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 河川 / 古写真 / アーカイブ / 情報の抽出 / 教材化 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、河川に関する博物館や資料館を訪問し、古写真を使った展示や教材の事例調査を行った。今年度は展示や教材の中の古写真に写し込まれている具体的な事物や事象に着目し、展示や教材のテーマと使用されている写真の特徴を整理した上で、教材に求められる古写真の要素を分析した。 扱われるテーマには、過去と現在の水辺環境、その場への人の関わり、水害による被害、伝統的な活動の継承への理解を促すものがあり、多くのテーマに共通する要素は被写体に人物が含まれていることであった。環境の変化や河川の氾濫については、家屋や公共物等も写し込まれているとその規模を実感しやすいことが示され、構図も重要になることが示された。また、ランドマークが写し込まれていると現状との対比がしやすいことも確かめられた。 予備的な実践として、古写真の教材(印刷物)への導入、デジタル化した古写真を用いた授業を行うことができた。教材については沖縄総合事務局と「Theダム-羽地ダム編-」を作成し、その中に過去の水不足の状況を示した古写真を掲載し、小学生のダム資料館見学に導入した。 展示では、川の駅はちけんやで開催された企画展「雨と防災」に近畿地方整備局、淀川資料館より提供された古写真を掲示し、公開中の来場者の反応を調査した。その結果、古写真は他のパネルや映像展示に比べ印象に残りやすいことが確認された。 教育実践としては高田河川国道事務所をはじめ関連機関の協力を受け、新潟県立海洋高等学校において古写真を活用した授業を行うことができた。「姫川のかわづくりについて(姫川の概要と整備、地域との合意形成)」の授業では、印象に残ったスライドは過去の姫川の洪水、水害の写真であり、そこから初めて知ったこととして、姫川は氾濫しやすい河川で昔から何度も水害に悩まされてきた事実、想像以上に水害により身近な場所に甚大な被害があったこと等があげられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた東京都内の都市河川の写真の調査や入手、アーカイブのデジタル教材化については時間がかかり次年度も継続することとなったが、今年度は内閣府沖縄総合事務局や国土交通省近畿地方整備局、北陸地方整備局高田河川国道事務所、リバーフロント研究所、新潟県立海洋高等学校、その他、霞ヶ浦環境科学センター、ポー川史跡自然公園、淀川資料館、名古屋大学減災館等、多くの博物館や資料館等の協力も得られ、古写真を使った教材作成および教育実践を実施することができ、おおむね順調に調査を進めることができた。膨大なデータを所蔵している組織においては、写真の選定作業の支援が得られ、必要な写真の貸与の許可も受けることができた。 教材化には教育的なねらいに適した古写真の特徴を把握することが重要であるが、展示や教材の事例調査によって今後の古写真の入手や選定の条件となる要素を抽出することができた。古写真の中には河川の水害の記録等、各地から多くの写真が入手できるものもあるが、上述の要素を含むものを優先して選定することで、今後のデジタル化、アーカイブ化を効率的に進めることができるものと考えられる。 また、古写真の展示や教材化、古写真を取り入れた教育実践を通じて、古写真が有する教材としての効果を確認することができ、今後の教材化に役立ついくつかの知見が得られた。展示や教材への導入はぞれぞれの構成の一部としてではあったが、該当アイテム、ページの目的に即した情報の提示ができ、利用者に印象づけていることも確かめられた。 教育実践では、生徒は日常的な風景の中にある河川の平常時の状況と大きく異なる被災の状況が記録された写真に影響を受け、河川の特性や氾濫の規模に関する知識を得るとともに、身近な被害の深刻さを感じていたことが示された。
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今後の研究の推進方策 |
近年、河川教育と防災教育のニーズが高まっており、これらのテーマに絞って、古写真の入手と選定、デジタル化、教材化を進めていきたいと考えている。本研究では教材のモデル化が目標であるため、当初予定していた東京に絞らず、都市河川については他の地方を含め広く対象とし、一連の作業を効率的に進めていきたい。 教育実践においてはデジタル化した古写真を使用したが、それらはまだアーカイブとして整理されておらず、アーカイブ教材としてのデザインはこれからである。今年度に確認した教材に求められる古写真の条件が整った代表的な写真を選定してデジタル化し、アーカイブとして構築し、活用をふまえて画面構成等を考慮して教材化していくことを目指したい。 それらの過程においては利用者の反応を調査し、その結果を反映する予定である。例えば、一枚の古写真を地域の専門家が読み取ることにより、専門知識や経験に基づいた詳細な情報を抽出できる可能性がある。写真のどの部分から何が読み取れるか、どのようなことを想起したか等の情報は貴重な情報を含むものと考えられる。このような情報を写真に付加することにより、古写真の教材的価値を高めることも検討していきたい。 古写真には過去の貴重な環境情報が視覚的に詳細に記録されているが、経年による滅失や散逸、撮影技術や記録媒体の変化により、その多くが消えつつある。河川に関するアーカイブ教材とその活用をモデル化し、河川教育、防災教育の現場に還元できるよう、引き続き次年度も調査や制作を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
教材作成を進める予定であったが、予備的な教育実践を先に実施したため、教材作成にかかる物品費が予定よりも少なくなった。また、実践にかかる出張に航空券・宿泊パックを利用し、旅費を安く抑えることができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
アーカイブ教材の制作費(物品費、謝金)に充てる。
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