研究課題/領域番号 |
15K00975
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研究機関 | 京都教育大学 |
研究代表者 |
谷口 和成 京都教育大学, 教育学部, 教授 (90319377)
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研究分担者 |
村田 隆紀 京都教育大学, 名誉教授 (10027675)
笠 潤平 香川大学, 教育学部, 教授 (80452663)
内村 浩 京都工芸繊維大学, アドミッションセンター, 教授 (90379074) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 認知心理学 / 物理教育 / 形式的操作 / 動機づけ / 教員研修 / アクティブ・ラーニング |
研究実績の概要 |
本研究は,中等教育における現在の教育課題である「問題解決能力」を育成する方法として,その基本となる「科学的推論力」に着目し,認知科学的アプローチを用いた物理授業により,その育成を目指すものである。 昨年度までに,研究協力校において,科学教育により認知発達を促す(CASE)プログラムを実施しつつ,並行してその手法を応用した「物理基礎」の授業開発およびその実践をした結果,科学的推論能力と学習に対する動機づけの向上が確認された。そこで本年度は,(1)これまでの授業手法を基本としたアクティブ・ラーニング型の「物理(4単位)」授業の開発(2)開発授業の継続的な実践による,科学的推論能力と学習に対する動機づけの変容と物理の学習効果との相関の検証,および(3)以上の成果をふまえた,新しい物理授業の提案およびその手法についての教員研修講座の開催を目指した。 (1)については,米国「物理教育研究(PER)」の成果のひとつ「相互作用型演示実験授業(ILDs)」を基本として,これまでにCASEプログラムを通して育んできた「形式的操作の推論形式(考え方)」を意識させるはたらきかけ(認知論的アプローチ)をこれに融合した授業プランを考案した。その継続的な実践の結果,(2)CASEプログラムを未経験のクラス(対照群)に比べ,経験したクラスの生徒の動機づけの向上は確認できたが,学習効果としては二極化する傾向が現れた。これは,「物理(4単位)」では「物理基礎」より抽象的な概念を扱いながら定量的な議論を行うことが求められるといった「形式的操作」が前提となるため,結果として対象クラスの認知的発達段階(科学的推論能力の発達)の分布を授業に十分に考慮しきれなかった可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画において最終年度となる本年度は,論形式の総合的・複合的な活用を必要とする探究活動プランを提案する予定であったが,前年度までの研究において,日本の高校生の実態として,認知的発達段階(科学的推論能力)が物理学習で必要な段階に達しておらず,通常の物理学習自体が成立していない生徒が一定の割合で存在する可能性を示唆する結果を得た。したがって,本年度は当初の予定を一部変更して,そのような生徒にCASEプログラムに基づく認知的な支援を行いつつ,物理の概念的理解を目指す物理授業プラン(探究的活動を含む)の開発・実践を行い,その成果について,教員研修等を通じて提案を行うことを目指した。 その結果,上記「研究実績の概要」のように,生徒の認知発達状況(段階)を意識した展開により,生徒の学習観や動機づけの改善・向上は達成したものの,学習効果としては不十分なものになった。したがって,新しい物理授業の提案および教員研修講座の開催に至らず,年度内に目的を達成することが難しくなった。しかしながら,本研究において明らかになった生徒の実態に対するより詳細な調査,およびその対処方法を検討することは極めて重要な意義があることから,助成期間の延長を申請するに至った。 なお,上記以外の研究計画に関する事項である「科学的推論力の評価テスト」の開発については既に終了しており,次年度においても授業の開発および評価に用いる予定である。また,これらの成果を教育現場に還元するための,現職教員を対象とした「教員研修講座」についても,今年度の実施には至らなかったものの,講座の概要,対象教員の設定や募集方法,運営体制など,次年度実施に向けた準備が順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は研究期間を延長した年度であり,確実に目的が遂行できるように,次の3つの事項を中心に研究を遂行する予定である。 (1)今年度と同様に,本研究において開発した手法により,高校生の認知的な発達(科学的推論能力)の状況を調査し,その発達を支援する高校物理カリキュラムの開発研究を継続する。ただし,今年度の実践の反省をふまえ,具体的操作期にある生徒への具体的支援の方法として,物理学習に必要な「形式的操作の推論形式(考え方)」を単元ごとに選別し,具体物を使って積極的に学習内容との「橋渡し」と「メタ認知」を意識した展開を検討し,年間を通じて継続的にはたらきかける。その上で,推論形式の総合的・複合的な活用を必要とする探究活動プランを提案する。なお,その成果は,関連学会における講演や論文誌において発表する。 (2)上記の結果に基づき,同様の教育支援および効果を実現できる教員の力量形成を目指す教員研修を開催する。実施にあたっては,教育現場との連携をはかり,可能な限り実践的な体裁をとる。 (3)研修参加教員に対する支援体制(たとえば,授業研究会など)を構築する。これに興味を持つ教員を広く受け入れ,研修外でも共同で授業プランを検討,構築する機会や実践における質問や疑問に答える場を提供する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は最終年度であるため,これまでの成果のまとめに向けて,同様の研究を行っている海外の研究者と意見交流するための旅費や成果に基づく教員研修講座の開催費用を計上していた。しかしながら,本務の関係でそのための時間がとれず,また研究の過程において高校生の科学的推論能力の実態を明らかにするにつれ,研究開始時には想定していなかった教育課題を新たに見出した。したがって,それに適切に対応する授業開発に遅れが生じ,結果としてこれらの活動を取りやめるに至った。以上の理由により,次年度使用額が生じた。 次年度の使用計画としては,当初の計画にしたがい,海外の研究者との交流のための費用および教員研修の開催費用および授業開発にかかる追加教材等の購入費用に充てる予定である。
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