本研究では,小学校教員を対象とした科学的な論証スキルを育成するプログラムを開発し,その有効性を評価した。 はじめに,小・中・高等学校の現職教員76 名を対象として,坂本ら(2012)の課題を援用した調査を行い,回路と豆電球の明るさに関して記述したアーギュメントを得点化した。その結果,主張に関しては高い点数が得られており,質問に正確に答えることができているが,証拠や理由付けに関しては,記述が不十分であることが明らかになった。 そこで,山本ら(2013)が小学校児童を対象として授業を行う際に導入した,12の教授方略によるプログラムを開発し,小学校の現職教師に適用した。プログラムは4 つのActivity から構成され,(1)アーギュメントの定義と意義についてのレクチャー,(2)児童のアーギュメントの実態に関するレクチャーと演習,(3) アーギュメントの指導と評価について体験的に理解する演習,(4) 小学校授業で実際に行われたアーギュメント指導の概観を含んでいる。プログラム中のワークシート,プログラム前後のアーギュメントを構成する課題と評価する課題,及び,プログラム後の質問紙調査を分析した。その結果,アーギュメントの構成や評価で有意な向上が見られ,受講者はアーギュメントの理解や体験活動について,プログラムを高く評価していた。 さらに,アーギュメントに対する教師のBeliefsを調査するとともに,そこで明らかになった「アーギュメントを指導する教師の自信」を向上させるために,教師自身が自分の授業でアーギュメントの導入を計画する活動をプログラムに加えて実施した。その結果,アーギュメントに対する「指導の自信」について,プログラム前後で肯定的な回答が増加した。よって,開発したプログラムは,小学校教師のアーギュメント構成能力,評価能力育成や指導の自信度向上に,有効であることが明らかになった。
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