研究課題/領域番号 |
15K00988
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
井上 正之 東京理科大学, 理学部, 教授 (00453845)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 油脂のヨウ素価 / N-クロロスクシンイミド / 油脂の光酸化 / 光ラジカル開始剤 |
研究実績の概要 |
N-クロロスクシンイミドとヨウ化カリウムを酢酸中で反応させて調製した一塩化ヨウ素を用いる,油脂のヨウ素価測定法を検討した。試料油脂(植物油)10種類について付加反応時間5分でヨウ素価を測定した結果,従来法であるWijs法によって求められるヨウ素価とよく一致することがわかった。ヨウ素価の定量的な測定には煩雑な滴定操作を伴うので,付加反応後に残留している一塩化ヨウ素にヨウ化カリウムを加え,遊離したヨウ素の色調によって簡易にヨウ素価の大小を比較する実験法も開発した。これによって代表的な乾性油,半乾性油および不乾性油を識別する実験教材を開発することができた。またN-クロロスクシンイミドおよびその酢酸溶液による腐食性を市販のWijs試薬と比較したところ,Wijs試薬と比べて揮発性と腐食性が低く,安全に扱える試薬であることが確認された。 光ラジカル開始剤を用いる油脂の酸化では,まずラジカル開始剤および光の波長の検討を行った。その結果,ラジカル開始剤として2,4,6-トリメチルベンンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(TMDPO),光の波長として365nmの近紫外光と415nmのパープル光が良いことがわかったので,光源として学校でも入手容易な市販のブラックライト(波長370nm)を用いることとした。油脂としてキリ油を用いる実験教材を検討したところ,室温,光照射5分の条件で,空気中および酸素中で酸化による硬化膜の生成を確認することができた。同条件下,窒素中では硬化膜が生じないことから,この反応が酸素によって進むことを示すことができる。ブラックライトによる紫外光の波長は一般に油脂の光酸化を促進する波長と一致するので,本反応は日常生活における油脂の光酸化のモデル反応として使うことができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
N-クロロスクシンイミドを用いる油脂のヨウ素価測定およびヨウ素価の定性的な比較に関する実験教材はほぼ完成した。また油脂の被酸化性とヨウ素価を比較する実験教材についても,ほぼ目処が立っている。 油脂の光酸化については,ラジカル開始剤と光源を決めることができ,過酸化物価とカルボニル価の測定およびFTIRによる解析から,メカニズムを把握できた。日常生活における油脂の光酸化とリンクさせるために,褐色ビンによる遮光やUVカットクリームによる遮光などの検討も進行中であり,一定の成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
油脂の被酸化性とヨウ素価を比較する実験教材について,実験方法を確立した上で,実験教室等における実践を行い,その結果を踏まえてまとめていく。またこの実験を通して,ゴマ油などに含まれる抗酸化物質の存在と効果に気づかせる実験教材を確立する。 油脂の光酸化については,褐色ビン以外の色つき瓶,着色フィルムあるいはPETボトルなどによる紫外線カットの効果を比較しながら,市中の店舗における植物油の販売方法の是非を考えさせる実験を確立する。並行して,キリ油以外の植物油の光酸化についてもデータの収集を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度には,物品として光源装置を購入した。光ラジカル開始剤の探索に試薬代がかかることが予想されたが,予期に反して良いものが早期に見出された。そこで機器備品以外の残余分を次年度に繰り越して,実験教室での実践を行うために必要な備品の購入に用いることとした。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のように,実験教室における実践を行うために必要な光源装置,撹拌装置などの購入に繰り越し分を用いる予定である。
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