本研究は、自然教育の重要な端緒である幼児期に焦点をあて、虫と出会うことの教育的意義を深く探求し、「園庭の虫あそび図鑑」の作成や「保育者養成教材の開発」という実践的成果へと結実させることを目的としている。そのために、以下の4点からアプローチを行った。A「幼児の虫体験の生態学的調査と分析」、B「園庭のむしあそび図鑑の作成」、C「保育者養成教材の作成」、D「虫体験の教育的意義の理論化」 A「幼児の虫体験の生態学的調査と分析」については、虫捕りあそびをしている子どもたちの動きやコミュニケーションについて分析を行った。虫捕りをしていた1人の男児の一日を追い、1時間37分の自由活動時間中の動きや他者とのコミュニケーションについて生態学的に明らかにした。B「園庭のむしあそび図鑑の作成」については、奈良女子大学附属幼稚園の園庭にて345種の虫の写真撮影を行い、それらの虫について生態や遊び方などを記載した図鑑(Web版)を作成した。また、関西圏の保育所や幼稚園の保育者に幅広く虫についてのアンケート調査を行い、その結果をもとに図鑑の虫の配置等を保育者も馴染みの深い順に配置した。現在も調査を継続し、順次虫図鑑の充実を図っていく予定である。本図鑑は、園庭という地域性を前面に押し出すことで、検索もしやすく、子どもも保育者も虫あそび初心者として、共に一から学んでゆけるものである。Web版としたことで、広く保育者を目指す学生(C「保育者養成教材の作成」)や保護者、関西圏の様々な園で活用が可能である。 D「虫体験の教育的意義の理論化」については、生きもの教育の中でも、特に幼児教育における虫と出会うことの教育的意義について以下の2つの側面から論じた。1つは、子どもたちの発達に有用な経験としての虫との関わりである。2つ目は、子どもたちが虫遊びの中で何に熱中し楽しんでいるのか、子どもの視点に立った議論である。
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