社会インフラとして高いデザイン性が求められる建築・都市景観事業では、創造性や技術力に加え、利害関係者の意図を汲みながら合意形成に導く能力も必須である。近年増加しているデザインが成否の核となる事業はより高度化・複雑化する傾向にあり、専門分野の枠を越え協働できる高度職業専門人材の育成は喫緊の課題である。本研究では、都市開発の先進事例を題材に、複合的課題に取り組ませるケース教材を開発することで、1)総合的視野と高度な知識・創造性を併せ持った人材育成に資することを目的としたが、 2)領域横断型ケース教材の活用によって教育・行政・産業界のニーズを反映したカリキュラム開発の可能性を提案することも第2の目的として実施した。 今回、題材とした3つの事例「ハイライン(米国)」「ヴァンセーヌ(フランス)」「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ(シンガポール)」では、行政が事業主体となり都市の開発方針に大きな影響を与えた。しかし、事業実現に向けて牽引した企画主体を見ると、ハイラインは2人の若者、ヴァンセーヌは行政、ガーデンズ・バイ・ザ・ベイは国家と、その意思決定プロセスやプロジェクトの組成方法は大きく異なる。本調査研究の結果、長期間にわたり様々な利害関係者の合意形成に挑戦し続けた点では同じだが、都市の巨大施設をつくる手法の可能性は無限であり正解はないという事実をあらためて認識した。調査では、複数の当事者からの資料提供や聞き取り調査によって全体像を浮き彫りにする必要があったが、こうした多様な意見や情報を取り込むことで、従来にはない領域横断型ケースとして、複数の専門分野の知識を使って取り組める教材となった。
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