モバイル端末は、高齢者にとって生涯学習のツールとして、また加齢に伴う認知機能の衰えを補償する有効なツールとしての可能性を持ったICT機器である。本研究は、高齢者のワーキングメモリ容量個人差がこのようなモバイル端末操作に及ぼす影響について検討し、高齢者用モバイルラーニングシステムの開発と運用において認知負荷を考慮したシステムとするための知見を得ることを目的としている。 本研究では、モバイル端末操作のもっとも基本であるシングルタッチに焦点をあて、高齢者のワーキングメモリ容量個人差がモバイル端末操作におけるシングルタッチに及ぼす影響について検討を行った。その結果、タッチペンインタフェースが高齢者のモバイル端末操作時には有効であることが示された。 ワーキングメモリには、処理成分や保持成分といった機能を分離できることが潜在変数分析よって明らかになっている。ワーキングメモリの機能成分の中で、処理成分と保持性分のどちらが高齢者のタッチペンインタフェースに影響を及ぼしているのかについて共分散構造分析によって検討した結果、ワーキングメモリの処理成分が高齢者のタッチインタフェースの操作に影響力を持つことがあきらかになった。 また、本年度の分析においてモバイル端末を利用したワーキングメモリの査定は、高齢者の自己効力感に影響を及ぼすことも明らかになった。 このような本研究における分析を通して、高齢者のワーキングメモリ個人差という内的要因を考慮したタッチインタフェースはどのようなものであるのかについて、認知負荷を考慮した実証的な知見を与えることができると思われる。今後は、タッチインタフェースの主流である指を利用したインタフェースに焦点をあて、ワーキングメモリの構成要素と指によるモバイル端末操作の認知負荷について分析を進める予定である。
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