研究課題/領域番号 |
15K01039
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
尾澤 重知 早稲田大学, 人間科学学術院, 准教授 (50386661)
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研究分担者 |
江木 啓訓 神戸大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (30422504)
森 裕生 早稲田大学, 人間科学学術院, 助手 (00758617)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ポスター発表 / 学習支援 / 学習評価 / 研究指導 / アイトラッキング |
研究実績の概要 |
ポスター発表は、研究発表において用いられる方法の一つである。本研究では、効果的なポスター発表方法を学ぶための学習プログラムと、その支援システムを開発し、学部教育や大学院の教育実践の中で評価を行うことが目的である。 学習プログラムは、「事前準備」「発表」「事後の振り返り」それぞれの段階で開発し、申請者が卒業論文指導を行っている学部学生21名に試行した。支援システムは、実際のポスターサイズ(A0サイズ相当)が表示可能な大型プロジェクタを用いて構築し、発表者とオーディエンスの視点の相違や共通点を、アイトラッキング(視線追跡)やウェラブルカメラを用いて評価できるようにした。 授業実践を対象とした質的研究の結果、ポスター発表指導における支援システムの有効性を確認することができた。とくに、オーディエンスのポスター発表の視線の遷移を発表者に意識させることで、ポスター発表内容の構造化を促しやすくなった。また、卒業研究の構想発表を行う学生(学部3年)にとっては、ポスター発表の準備そのものが研究構想の明確化につながることも明らかにした。 2016年1月に21名が、ポスター形式で卒業研究発表もしくは卒業研究の構想研究の発表を行い、実際の発表を対象にポスター発表の評価方法の検討を行った。オーディエンスの行動及び発話の質的分析の結果、発表者がいかにオーディエンスの質問を引き出すかによって、内容に対する理解度が異なる可能性を明らかにした。ポスターの構造が明確であることはもちろん、①リサーチクエスチョンがオーディエンスにとって理解しやすいこと、②発表者が「問い」と「解」を発表の中で繰り返すか、オーディエンスの質問を引き出すこと、③オーディエンスの「誤読」に適切に対処することの重要性を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ポスター発表を、「事前準備」「発表」「事後の振り返り」の3つのフェーズで検討し、それぞれ効果的なポスター作成方法や支援方法を明らかにしている。 「事前準備」のフェーズでは、研究のアウトプットをポスター発表にふさわしい形式にいかに変換させるか、また、レイアウトやデザインについて基本が学べるよう、教材作成を行った。教材はテキスト、及び講義形式で提供した。学生からの評価をもとに2016年度版の改善を行っている。 「発表」の段階では、オーディエンスがポスターや発表者の何を見ているのか、どのような行動をしているのかを、アイトラッキングやウァラブルカメラを用いて明らかにしている。膨大な画像データの分析方法を定め、定量的な分析を行う準備を進めている。 とくにオーディエンスがポスターや発表者をどのように見ているか、デモンストレーションを含む場合はデモンストレーションに対してどのように着目しているかに焦点を当てている。これによってオーディエンスの視点を、発表者がより意識しやすいように試みている。当初予定していた位置情報把握システムについての検討が遅れているが、2016年度前半に開発を進める予定である。 「事後の振り返り」は、ポスター発表終了後の検討である。ポスター発表がオーディエンスからどのように評価されているかに着目している。行動観察の手法と、質問紙やインタビュー調査などを組み合わせて既に評価を行っており、成果発表の準備を進めている。 本研究は、効果的なポスター発表のための学習プログラムや、テクノロジを用いた支援システムを構築することを目的としているが、おおむね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後2年間は、既に開発した「ポスター発表学習プログラム」の教材を発展させ、一部映像コンテンツとしてYouTube等を用いて提供する。動画によってポスターとデモンストレーションとの関係などをより分かりやすく明示できると考えられる。動画コンテンツの公開にあたってもネットコミュニティを利用しフィードバックを得る。 発表フェーズでは、位置情報把握システムを用いて発表者とオーディンエンスの位置関係を定量的に把握し、ネットワーク分析を用いて評価する。対象となる授業の学生全員にカード型のセンサーを装着させ、ポスター発表会場においてオーディンスがどのように移動しているか。各ポスターの閲覧時間などを把握する。事後の振り返りのフェーズでは、位置情報のフィードバックを行うことで、発表内容とオーディエンスの動きの関係を検討する。 位置情報については、様々な技術革新が進んでいるため、当初の研究計画を第一案としつつも、より安価かつ信頼性の高いシステム導入の可能性も並行して模索したい。 研究分担者とは、ポスター発表の学習プログラムや、支援システムの導入が、学生の卒業研究や修士論文の内容や仮説などに、どのような影響を及ぼしたかについて検討を加える予定で進めている。ポスター発表は口頭発表と比べて、提示内容を厳選しなければならない。このことから中間発表段階でのリサーチクエスチョンの洗練などが図られると考えられる。本研究では、学習ポートフォリオも含めた質的研究によっても明らかにしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初支出を予定していたポスター印刷用大型プリンタについて。当初設置を予定していた実験室の運用方法が変更となり、電子黒板(プロジェクタ)と大型プリンタ設置を同時に設置する面積が確保できなかった。加えて、ポスター印刷用の大型プリンタについては学部全体で、ポスター印刷用のプリンタが新規購入され、申請者が意図しない部分で、申請時と状況が変化している。そこで、今回は電子黒板(プロジェクタ)の購入を優先した。 国際会議2件の投稿にチャレンジしたが、いずれもリジェクトとなったため、翌年度の使用計画とした。
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次年度使用額の使用計画 |
ポスター印刷用の大型プリンタについては学部全体で、ポスター印刷用のプリンタが新規購入され、申請者が意図しない部分で、申請時と状況が変化した。プリンタのサイズを変更し、「ミニポスター発表」の研究を進めるか、電子黒板(プロジェクタ)を追加購入し実証実験を強化するか、設置場所も含めて検討している。
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