研究課題/領域番号 |
15K01058
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
藤井 規孝 新潟大学, 医歯学系, 教授 (90313527)
|
研究分担者 |
奥村 暢旦 新潟大学, 医歯学総合病院, 助教 (90547605)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 歯科臨床 / 技術教育 / 力のコントロール |
研究実績の概要 |
教育目標において精神運動領域、すなわち技能教育のタキソノミーは模倣(Imitation)、巧妙化(Manipulation)、精密化(Precision)、分節化(Articulation)、自然化(Naturalization)のように分類されている。しかしながら、特に多種多様な材料や器材を扱って行う歯科治療に関しては、材料の特性や器材の特徴を理解した上で適切にそれらを取り扱う、という独特の技能を習得することが求められる。そのため、歯科医師の治療技術や治療の結果は術者の手技だけではなく、材料や器材の扱い方にも大きく影響を受けると考えられる。さらに、材料や器材を取り扱う際、また治療時に患者の口腔内に直接触れる際に術者が加える力の程度が治療結果を左右することも珍しくない。したがって、確実な歯科治療を行うためには、術者が治療時の力のコントロール(歯科治療「力」)を習得していることが必要不可欠であるといえる。 一方、例えば熟練者の治療を動画として記録し、学習者が繰り返しそれを視聴することによって効果的なイメージトレーニングを行うことが可能となるテクニカルな手技とは異なり、治療時の力のコントロールは可視化することが難しく、歯科治療「力」はそれぞれの歯科医師が経験から会得するものであった。しかしながら、日進月歩する現在の歯科医学において学生や研修歯科医に求められる学習項目が減少することはなく、超高齢化社会を迎えた今、できるだけ早期に歯科医師としての基本的な治療技術を習得することが望まれている。本研究は、文章や図はもちろん、十分な臨場感を備えた動画でさえも効果的な学習教材にはならない歯科治療「力」を実際に体感できる教育システムを開発することである。今年度は研修歯科医を対象とし、治療経験の増加に伴う歯科治療「力」の変化について調査を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はこれまでに得られた成果を一旦まとめることができた。治療経験が治療時の力のコントロールに影響を与えることを証明するために行った昨年度の予備実験の結果から、臨床実習中の学生と学生の指導を担当する教員歯科医師が身につけている歯科治療「力」の差が明らかにされたため、これを論文としてまとめ、「高頻度歯科治療における処置時の力のコントロールに関する研究(筆頭著者:中村太(研究協力者))」を日本歯科医学教育学会雑誌に投稿した(32巻1号、2016年4月発刊)。次に研修歯科医を対象に行った治療の経験期間と歯科治療「力」の変化に関する報告を第35回日本歯科医学教育学会学術大会(大阪)において発表した(筆頭演者:奥村暢旦(研究分担者))。さらに、この発表を論文にまとめ、「研修歯科医の臨床技術修得における力のコントロールに関する研究(筆頭著者:佐藤拓実(研究協力者))」として日本歯科医学教育学会雑誌32巻3号に掲載することができた。これら一連の学会報告、論文発表によって本研究の遂行目的と意義を特に歯科医学教育に携わる関係者に幅広く発信することができたと思われる。 また、一昨年度に臨床研修を修了した2年目の歯科医師のうち、調査可能であった数名を対象に臨床研修修了1年後の歯科治療「力」の測定を行った。現在、結果を解析中であるが、これらはいずれも治療経験と歯科治療「力」が密接に関係することを示すと予想しており、本研究の貴重な成果、すなわち現時点までの達成度を表すものと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度も引き続き治療「力」のデータ収集を行う。臨床経験と治療「力」コントロール技術の関係を探るために、主に新潟大学研修歯科医、臨床実習および臨床研修のインストラクターを務める歯科医師を対象として高頻度一般歯科治療(歯周ポケット検査、歯肉圧排、歯石除去、感染歯質除去、抜歯、全部鋳造冠装着、義歯装着など)を行う際に術者が患者に加える標準的な力の大きさを測定する。このように歯科治療「力」の適正値を探り、様々な処置に対して指標となる数値を示した資料を作成する。次に、学生、研修歯科医を被験者としてこの資料の有用性を確認する。すなわち、①歯科治療「力」に関する資料を渡すと共に測定機を用いてトレーニングを行い、自分の歯科治療「力」を意識・把握したグループ、②特に資料は渡さず、それぞれの臨床経験を頼りにするグループに分け、1)う蝕を再現した人工歯を用いて感染歯質を完全に除去するまでの時間、2)部分欠損顎模型と部分床義歯を用いて義歯床内面の強圧部位を確認する、等臨床において高頻度に遭遇する代表的な処置に対する治療効率および治療の正確性を確認する。同時に術者の視野を記録した動画を作成し、上記1)、2)の実験を行って歯科治療「力」と動画教材の効果についても比較検討を行う。上記の結果により、歯科治療技術(効率、正確性)を向上させるための教材にはそれぞれに特性があることを確認すると共に、治療「力」の可視化が有効な手段となり得ることについて学会発表や論文投稿を行い、本研究の成果を広く発信することにも努める。
|