研究課題/領域番号 |
15K01081
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
猿田 和樹 秋田県立大学, システム科学技術学部, 准教授 (80282193)
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研究分担者 |
寺田 裕樹 秋田県立大学, システム科学技術学部, 助教 (40360002)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 運転者教育 / 認知能力 / タッチパネル / 視線計測 / 車載カメラ映像 |
研究実績の概要 |
本研究は,ドライバーが前方の歩行者等の対象物の認知能力を高める運転者教育システムを開発し,交通事故の低減に寄与することを目的とする。提案システムはタッチパネル式ディスプレイに車載カメラ映像を提示し,映像中の対象物の位置を被験者にタッチさせ,対象物に対するドライバー認知行動を計測する。平成28年度は提案システムの問題点の改善,被験者への提示映像サイズが訓練効果に及ぼす影響,視線計測機能の活用による注視行動レベルの定量化について主に検討した。 提案システムの改善では,被験者が歩行者を認知したと判定する基準を変更した。従来は提示映像中の走路を目安に,左・中・右と領域を分割し,領域の境界付近歩行者が位置する場合に注視とみなされない可能性があった。そこで,歩行者を中心とした一定領域内に視線が停留した場合は認知とみなすよう処理を改善し,認知時間とタッチ動作時間をより正確に分離することを可能とした。前年度の実験データを再度分析した結果,従来と同等の訓練効果が得られることが確認できた。また物体認識モジュールの改善と歩行者教育への応用についても取り組み,被験者の注視領域における歩行者と車両の認識手法について検討した。 提示映像サイズの影響については,従来と異なるサイズのモニタを用いて被験者の認知時間の訓練効果について分析した。これまで12inchモニタのタブレットPCを実験に用いていたが,被験者の視野内に映像すべてが含まれ正確な認知時間が得られていない可能性もあった。そこで21.5inchのタッチパネルモニタで従来と同一の計測実験を実施した結果,提示映像サイズを変更しても同等の訓練効果が得られることを明らかにした。 注視行動レベルの定量化では,静止画と動画を提示した際の被験者の注視行動を定量的に分析し,注視行動レベルの判定手法について検討した。実験により提案手法の妥当性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度までの研究により,映像追加編集ツールを開発,視線計測器の導入による提案する運転者教育システムの改善,注視行動の計測,提示映像サイズの影響についての検討を主に行った。 映像追加編集ツールの開発により,映像の編集と歩行者位置情報の取得を容易にし,時間帯や歩行者位置など映像の属性情報の記録を可能とした。今後さらに実験用の映像を増加し,様々な条件に対する認知傾向の分析や訓練効果の違いについて検証するなど,幅広く研究を遂行する準備が整いつつある。 また,提案システムへの視線計測器の導入により,被験者の視線情報の取得を可能とし,映像中に歩行者が出現してから被験者が歩行者位置にタッチするまでの反応時間を,歩行者の認知時間とタッチ動作時間により正確に分離することが可能となった。さらに,静止画と動画に対する被験者の注視行動を計測し,運転映像に対する注視行動を定量的に分析し,被験者の注視行動レベルの判定手法を提案した。実験により,効率的に歩行者を探索する被験者のスコアは高くなるなど,一定の成果を確認できた。一方で習熟度が低い被験者の注視行動レベルが高くなるケースも存在し,スコア化の基準変更が課題として挙げられる。 さらに,本研究では可搬性を高め利用場所を限定しない運転者教育システムの実現を目指しているため,タブレットPCに実装し実験を遂行してきたが,モニタサイズが小さく被験者が見づらいことや中心視で対応できる可能性などが課題として指摘されていた。H28年度には比較的大型のモニタを利用した場合でも同等の訓練効果が得られることが確認でき,一定の可搬性は確保しながらより見やすくかつ高い臨場感で映像提示をできることとなり,今後より多くの被験者を対象とした研究の遂行が期待できる。 なお,今後様々な年齢層の被験者での実験結果を比較するため,H28年度には高齢者の認知時間の計測も一部実施した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降は映像追加編集ツールの改善と実験用映像の充実を図る一方で,より多くの被験者を対象とした視線情報の計測・分析および訓練効果の検証に重点を置き研究を遂行する。認知対象は引き続き歩行者に限定する。 H27年度に着手した映像編集追加ツールの開発は今後も継続し,実験用映像の作成と追跡処理の導入等による歩行者位置情報の自動化促進と高精度化について検討する。 視線情報の計測・分析については,運転者教育システムにおける視線計測機能のより一層の充実を図る。具体的には,H28年度に提案した注視行動レベルの判定手法の改善を図り,被験者の注視行動をより正確にスコア化できる機能の実現を目指す。さらに,提案システム利用時の認知時間やタッチ時間,および注視行動レベルの判定結果の被験者へのフィードバックを図り,訓練時のフィードバック効果について検証する。 提案システムを用いた認知能力向上のための訓練効果の検証については,より詳細な分析が必要とされる。今後は,映像中の歩行者の位置(左右)や時間帯などの様々な映像属性のみにとどまらず,高齢者を含む様々な年齢や運転習熟度の異なる被験者に対する提案システムの訓練効果についても分析する。さらにH28年度に調達したグラスタイプの視線計測器の利用により,実際の運転における訓練効果についても検証する予定である。提案システムを用いた訓練前後におけるドライバーの視線を計測し,実際の運転場面での歩行者の認知能力向上への効果について分析する。 また,これまでの研究により,被験者が映像中のどこを見ていたかは計測可能となったが,何を見ていたかは視線座標と映像を照合しながら確認せざるを得ないのが現状である。注視行動の分析には重要な意味をなすことも考えられるため,今後はさらに認識モジュールを改良し,注視領域に何かあるかを画像認識により判定し,分析する手法についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度には30名の被験者を対象とした運転者教育システムでの計測実験を実施した。その中で高齢者に対する計測実験も一部実施した。運転経験や年齢層の異なる多くの被験者の計測データが必要となるため,さらに多くの被験者を募る計画を予定していたが,実験の実施がスムーズに進まないケースや被験者の確保が難航するケースがあり,H28年度は新たな被験者を募っての実験を断念し,次年度に繰り越し使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度には高齢者7名を被験者として実験を実施したが,高齢運転者の事故が近年クローズアップされることもあり,より多くの高齢者の被験者を動員し,認知特性や訓練効果における若年者との比較実験を実施する。なお,H28年度に実施した高齢者の計測結果は現時点では整理中であるが,70歳未満と70歳以上では傾向が異なる可能性もあり,高齢者の被験者をさらに17名以上確保し,認知時間および注視行動の計測実験を遂行する計画である。
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