研究課題/領域番号 |
15K01084
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
松原 行宏 広島市立大学, 情報科学研究科, 教授 (30219472)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 教育工学 / バーチャルリアリティ / 人工知能 / 反力デバイス / タブレット端末 |
研究実績の概要 |
タブレット端末はその可搬性や容易かつ直感的な操作性などから学習支援の道具として強い期待があり,総務省によるフューチャースクール推進事業等でその活用が実験的に模索されている.一方,学習指導要領等で指摘されているように,学習者の自発的な学習行為を促すように学習意欲を喚起すること,自ら考えて問題解決を行う力を養うことの重要性が再認識されており,発見的学習の考え方が改めて注目されている.そこで,タブレット端末を用いて学習者自らが発見的学習行為を行える学習支援システムや仮想実験環境の設計,特に理科・初等力学に焦点をあてプロトタイプシステムの設計を試みた.また発見的学習を促すための一つの要素として「力覚」を伴わせてタブレット端末上で仮想実験が行えることを重要視し,そのシステムの基本的設計,プロトタイプシステム開発,ならびに評価をすることを目的とした. これまでの研究で初等力学の滑車の題材において学習者が滑車に見立てたマーカを配置して様々な滑車システムを自由に構築し,それを通じて力の関係や仕事と働きについて発見学習が可能となるAR型仮想実験室が開発されていたが,これらはデスクトップ型PC等の従来型プラットフォーム利用を想定していた.そこでH27年度ではタブレット端末のインタフェース特徴を活用したシステムの拡張を行った.具体的にはタブレット端末の可搬性や簡易性,操作性,直感性を損なうことなく利用可能な力覚提示デバイスの導入と基本システムの設計を行いプロトタイプシステムを完成させた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) タブレット端末への力覚提示デバイスの導入方法の検討: 力覚提示デバイスとして田中・佐藤らが提案しているSPIDAR Tabletを参考にしてタブレット端末へ適用可能な力覚提示デバイスを作成した.またタブレット端末とのデータ通信,一体化させた設置の方法について検討し基本的枠組みを完成した. (2) タブレット端末での初等力学「滑車を用いた力のはたらきと仕事」の題材に関するVR実験室の検討ならびに学習者が自由に実験環境を設計できるためのメカニズムの検討: 平成24-26年度の基盤研究において,定滑車や動滑車,おもり,糸,天井や床の設定等を表現したARマーカを自由に机上に配置してそれを簡易カメラで撮影することによってコンピュータでそれをリアルタイムに解釈し,学習者が想定した滑車の仮想実験環境を構築することを可能とした.本年度はそれを拡張し,タブレット端末の画面上にある定滑車や動滑車を指でドラッグしながら仮想実験環境内の画面に適切に配置することにより,学習者が想定していた滑車システムの体験を可能とするモジュールを完成させた.画面内に実現した滑車システムの糸を,その画面の上で直接操作する形態で実際に糸を指先で引っ張る方向に計算式通りの力を感じさせる機能を構築した. (3) 基本システムの設計(自由に設計することが可能なプロトタイプシステムの検討(定滑車2個,動滑車1個)): 第1ステップの基本システムとして,定滑車2個,動滑車1個の組み合わせにおいて,自由に配置して設計することが可能となるプロトタイプシステムを完成させた.その際,オブジェクトをどの位置においても接続関係が一意に決定して動作すること,また最終的には同じ配置状況になるとしてもオブジェクト(滑車)を配置する順序が異なる場合でも正確に認識できるよう実現した. 上記(1)(2)(3)について,当初の計画を概ね達成している.
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今後の研究の推進方策 |
(1) 教育実践用プロトタイプシステムへの拡張(定滑車3個,動滑車3個): 平成27年度で,第1ステップの基本システムとして,定滑車2個,動滑車1個の組み合わせで動作するシステムの設計と実装を行った.平成28年度は,そのシステムを,定滑車3個,動滑車3個まで扱えるように拡張する.拡張システムが完成すれは,原理的にはそれ以上の個数の滑車も扱えることが期待されるが,現在中学校や高等学校で使用されている教科書等を調査すると,例題や練習問題として扱われている問題は,定滑車3個,動滑車3個までで表現できるよう扱われている.そこで,定滑車3個,動滑車3個を自由に配置して接続し,力と仕事の関係が理解できるように工夫することを検討する予定である. (2) 実践の実施とシステムの定量的評価: 平成28年度前半で教育実践用プロトタイプシステムを完成させる.平成28年度後半から平成29年度は最初に,すべての組み合わせが,任意の順序でオブジェクトを配置しても正確に動作するかを検証する.そのうえで,1)実物の滑車キットを用いて実験するケースと,2)平成24~26年度の基盤研究において完成したARマーカを用いて自由設計するシステム,3)本研究課題での提案システムを用いるケースを設定し,それぞれの長所と短所を定性的に明らかにする.また,評価実験において各ケースの実験作業の効率性,柔軟性,発見的学習への接続性,学習活動の有効性等を,定量的に検討する.最初に,大学研究室での実験室環境での実験を実施し,一定の効果が認められれば,中学生や高校生を対象とした実践を行い,考察を行う.またその実験結果に基づき,システムのユーザビリティ等を調査し,問題点の修正と拡張を行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
概ね計画通り執行している.人件費・謝金の一部が数千円程度(1名の1日分の経費)残り,合計6,291円を次年度利用とした.
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次年度使用額の使用計画 |
当初計画通りに執行予定である.繰越(6,291円)は,旅費の一部として活用する予定である.
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