研究課題/領域番号 |
15K01100
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研究機関 | 大阪電気通信大学 |
研究代表者 |
竹内 和広 大阪電気通信大学, 情報通信工学部, 教授 (20440951)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 教育工学 / 情報教育 / プログラム教育 / ソフトウェア工学 |
研究実績の概要 |
研究初年度の平成27年度は主に初級のプログラム教材を収集するとともに、プログラム初心者がプログラム説明にどのような語彙を用いて説明を使うか、初心者の説明事例を収集し、そこで使われる語彙を抽出した。そのような前年度の基礎的調査を踏まえ、平成28年度は、プログラム説明概念の整理と、教材開発・実践を以下のように実施した。 プログラム説明概念の整理については、初級から中級への発展性を意識し、プログラムの部分機能がどのようにして高度化されるかを検討した。具体的には、昨年度収集した初級プログラムの構造を様々なラベル付きグラフで表現し、それに類似する部分構造を自動収集する研究を行った。さらに、そのようなプログラム部分構造を説明対象として、関連文章の言語表現を対応付ける研究も実施した。この対応付けでは、プログラム構造が目的を達成するために典型的な手法であるかを評価する必要があるため、プログラムの典型性の評価指標を支える、プログラム構造のデータベース化を進めた。 他方、プログラムの相互理解に向けた教材開発については、中級以上のプログラム説明に必要とされる能力を意識し、次のような2つの方向性で検討を行った。一つは、小規模クラスにおいて、対象をプログラムの行数が100行以上にわたる中級プログラムの機能説明をペアワークおよびプレゼンテーションにより説明する授業実践を行った。他方は、ソフトウェア開発の上流工程との連携性の側面から中級プログラムをとらえ、長野工業高等専門学校の藤田悠氏が作成した、プログラムを用いた技術文書作成教育のための試作教材を利用した実験を 100名程度の規模で実施した。このことにより、中級プログラムの相互理解を、処理内容だけではなく、上流工程と整合を持つ観点から教材開発の基礎となるデータを収集できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の研究目的の基盤である、プログラム教育に資するプログラム説明概念の辞書化について、近年の機械学習研究における中間表現の研究環境の飛躍的な進展に鑑みて、本研究課題でも、概念辞書をそのような潮流と整合をもつ知識表現となるように整理方針を修正した。具体的には、プログラムを抽象的なグラフ構造で表現し、そのようなグラフから知識抽出するための代表的なマイニング手法を試行する調査からスタートさせた。その結果、プログラム概念説明の対象単位を統計的に裏付ける上で、グラフ構造を前提としたマイニングが有益なことを確認し、プログラムが提供する機能が典型的な実装であるか否かを客観的に判断する手法の開発基盤を固めることができた。 教材の研究開発については、平成27年度および28年度の2年間の教育実践的な調査により、大学生がプログラムの相互理解のために使う語彙を、詳細設計レベルの初級プログラムでの収集に加え、上流工程との連続性を中級プログラムに必要な要件として位置づけ、説明語彙の収集の幅を広げることができた。 以上のように、研究的意義をより先進的なものとすることを目指し、プログラム説明概念を計算機寄りに整理する方向に修正したことから、プログラム説明概念の辞書の考え方が当初計画の仕様から変化した。作業遂行はそれに柔軟に対応しつつ進めているが、当初計画に比べて、進捗は、やや遅れている状態にあると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況で記述したように、本年度の研究に基づいて、今後は、プログラム説明概念の辞書を当初計画よりも、機械処理に整合した形で整理していく予定である。その影響として、研究の進捗度合いがやや遅れる可能性があるものの、研究の基盤となる知識表現が、近年の機械学習研究の潮流と整合する形にすることが、研究的意義と社会貢献性を高めるものと考えている。例えば、この方針の修正により、当初計画よりもプログラム教育に関わる評価や問題選出といった諸要素に関して、計算機援用ができる可能性があり、その点を視野にいれて研究を推進したい。 他方、説明の対象となるプログラム選定については、今年度の調査により、教育の題材となる初級・中級プログラムの具体的なプログラムを選定しておくという方向性の他に、上記の説明概念辞書の客観性の強化に基づいて、それぞれのプログラム要件を設定する方向性が実現可能となった。また、教材作成の題材と説明の目的をより明確にすることができ、教育上のリフレクションに関して基準を設置する研究を推進する予定である。そのため、過去二年間の教育実践とは方向性を変化させ、自他のプログラムに対する説明を自覚的にかつ客観的に振り返ることを念頭にした教育実践・教材開発を行っていく予定である。 最終年度は、本研究課題での成果をできるだけ広く公知し、情報教育だけにとどまらず、プログラム構造に関連する研究領域との情報交換を活発にすることを目的として、関連する会合での発表を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度(平成27年度)は、調査的課題に集中する必要があったため当初計画の作業的・開発的な支出の執行を見送ったことに加え、平成28年度は、近年の関連研究の動向変化により、当初計画の方針を変更し、データから知識抽出を行ことで説明概念辞書を整理する方向性により力点をおいた研究遂行を行った。そのため、当初計画で計上した作業的・開発的な支出を限定的に留め、研究代表者・研究協力者の試作的プログラムや既存プログラムの援用により研究を進めた。また、研究開発度合いの高い遂行を行ったため、研究発表・情報交換を研究の進捗状況に基づいた限定なものに絞ったため、旅費の支出が当初計画よりも抑えられたため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、説明概念辞書の整理について、データからの知識抽出に基づく手法の比重を高めたため、辞書整理前の作業的・開発的支出は抑えられた。しかし平成29年度に、整理後の知識の確認や、知識抽出ソフトウェアの頑健化ためには、物品費・人件費の支出が必要となる可能性があり、研究成果の有用性を考慮にいれ、総合的な観点から適切に予算を執行したい。 また、旅費についても、平成28年度は、研究の進捗度合いが遅れ気味であったため、成果共有・情報交換のための支出を限定的に行った。平成29年度は計画最終年次であるため、得られた研究・開発の成果を有効に社会還元する前提となる情報交換の機会をより得られるよう、適切に旅費の執行を行う予定である。
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