研究課題/領域番号 |
15K01115
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石原 あえか 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (80317289)
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研究分担者 |
大西 成明 東京造形大学, 造形学部, 教授 (10585996)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 北里柴三郎 / 北島多一 / 台湾 / 高木友枝 / 皮膚科ムラージュ / 近代医学史 / 衛生学 / ドイツ |
研究実績の概要 |
平成28年度前半は、石原がドイツ・フランクフルトを研究拠点に約3か月間比較的長期の研究滞在を行ったため、ドイツ留学経験のある北里の弟子達に関して、ドイツ側での研究調査が飛躍的に進んだ。特にP.エールリッヒに師事した秦・志賀については彼らが勤務したゲオルグ=シュパイヤー=ハウスやフランクフルト市のアーカイブ等でも調査し、かなり明確に彼らの足跡を辿ることができた。同じくヘッセン州のマールブルク大学医学史研究所でも北島多一とベーリングの関係を詳しく調査し、こちらは日独両方の資料を比較検討した成果を、同研究所スタッフ、エンケ博士と共著論文にまとめた(2017年公表予定)。さらにベルリン医学史博物館の仲介で、スイス・チューリッヒ大学とも情報交換ができた。 また6月には「挑戦的萌芽」の時点からお世話になったドレスデンのドイツ衛生博物館で、代表者・石原が分担者・大西の撮影データを活用して、1911年の衛生博覧会で責任者となった2名の北里の弟子、宮島幹之助と高木友枝に関する情報も含めてドイツ語の招待講演を行った。この講演内容はさらにドイツ語論文としてまとめ直し、年度末に公表した。 9月上旬(本来は4月上旬に熊本・福岡出張を予定していたが、地震発生で急遽延期となった)には九州大学医学部を中心に、北里門下と関連の深い寄生虫学者の宮入慶之助、また北島同様、マールブルク大学に籍を置いた医学者・田原淳などについて詳しく調査・撮影を行い、同学附属博物館・文書館の学芸員・担当者とも情報交換を積極的に行った。 高木友枝については別途、特に北里研究所のご協力により、寄贈資料の調査を継続・進行中。東大医科学研究所や東大医学部図書館などからも撮影協力・資料提供があった。 研究分担者撮影の写真を使い、今年度も医学専門誌『西日本皮膚科』で4回、綜説の書下ろし論文として共同の研究成果を一部公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
全体的な研究成果から言えば、「おおむね順調」と言えるのかもしれないが、日程的な面では予定よりも「若干遅れている」。たとえば4月始めには九州大学の福岡だけでなく、北里ゆかりの熊本出張を予定し、北里柴三郎記念館(小国町)とも綿密に連絡を取って準備したが、前日に熊本大地震が発生し、安全確保を優先に急遽取りやめ、9月に福岡(九大)のみに絞って出張した。 また4月の出張延期後は、個々の作業遂行には影響がなかったものの、撮影を含む調査出張については、今年度は長期休暇や出講日も合わず、また調査対象が、平日しか入れない大学研究施設が中心であったため、計画を立てるのが非常に難しかった。さらに12月には研究分担者の入院があり、共同作業の見込みが立たなくなった時期があった。いずれも不可抗力の理由であり、他方、個人作業は予想より順調に進んでいる部分も多いので、全体的に見ればさほど遅れはなく、研究に大きな影響はないと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
最初の2年間で、撮影を含む遠距離の国内出張は一通り済ませることができたと考えている。最終年度は関東近郊の出張と研究施設や大学附属図書館等での調査が中心になる。 最終年度に入るため、本研究の前段階(挑戦的萌芽)からも含めた、研究成果のまとめと公表を効果的に行っていきたい。なお、成果公表は日本国内だけでなく、ドイツ語圏も視野に入れており、具体的には北島多一についてはドイツ側研究者との共著論文の執筆、およびマールブルク大学医科学研究所での口頭発表をすでに予定している。 高木友枝については、本研究プロジェクト以外の研究者・関係者の協力・参加も得て、北里の本来の「一番弟子」であった彼の功績と、日本と台湾を結ぶ衛生行政や医学交流についてまとめる。上記二人の他、宮島・秦・志賀など北里の直弟子達すべてについて、これまで撮った資料を有効に活用し、論文および書籍での成果公表をめざす。 またこれまで撮影後、管理の難しさから一括して分担者が責任保管していた画像データ等についても整理し、刊行後は、各協力施設にそれぞれ成果を還元して、完了としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
4月に予定していた熊本出張(北里柴三郎記念館)が熊本大地震のために延期した。同館はその後、しばらく避難所として機能していたこともあり、日程等の関連から、9月に福岡のみに縮小して実施したこと、研究滞在者の海外研究滞在や研究分担者の入院等もあり、その後、しばらく宿泊・撮影を含む国内出張の予定を立てにくい状態だった。このため、旅費や撮影・データ整理に関わる経費に繰り越しが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
出張延期があったため、旅費の使用をセーブしてしまったが、9月の福岡出張で九州方面の主要撮影目標は達せられたと考えている。したがって研究分担者が今年度使い切れなかった額については、最終年度で計画している関東近郊の日帰り出張(旅費)、研究成果の分析・整理に必要な文房具、印画紙、撮影関連に必要な小物や付属品の補充、さらに成果公表物の郵送費等にも使う予定。また必要な参考文献等の資料代にも追加配分して用いる。
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備考 |
2017年3月22日のデュッセルドルフ大学・医学史フォーラム講演開始前の簡単な研究紹介インタビュー(大学WebCat)
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