研究課題/領域番号 |
15K01116
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡本 拓司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (30262421)
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研究分担者 |
横山 ゆりか (今井ゆりか) 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (20251324)
折茂 克哉 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (30376579)
高橋 雄造 電気通信大学, UECコミュニケーションミュージアム, 学術調査員 (60055225) [辞退]
夏目 賢一 金沢工業大学, 基礎教育部, 准教授 (70449429)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | 工学 / 帝国大学 / 高等学校 / 科学 / 科学論 |
研究実績の概要 |
岡本は、昨年度のスウェーデン出張で得た、日本の科学研究が関わるノーベル賞への推薦に関する情報をもとに、戦前期日本の科学研究の成果が戦後にどのように引き継がれたかを検討した。1949年に湯川秀樹がノーベル賞を受賞したことで、日本の科学者の間には、ノーベル賞選考に対する信頼と、自らの科学研究に対する自信が生まれ、朝永振一郎が1965年に日本人として2人目のノーベル賞受賞者となる以前に、戦前と比較すればきわめて活発といえる推薦活動が行われていたことが明らかになった。また、科学関連では、戦時中の日本数学物理学会の動向を学会内の資料に基づいて把握し、戦時下の学会組織の動向を明らかにした。 岡本は、今年度は新たに、戦前期の科学論に関する検討も開始した。すでに戦前期の科学論において、科学と技術の関わりの重要性は意識されており、特にロシア革命以降日本でも支持者の増えたマルクス主義の影響の下にある集団においては、活発な検討が行われた。岡本は、1920年代の田辺元・石原純らの科学論と、唯物論研究会に拠った岡邦雄・戸坂潤らの議論を比較し、後者が自然弁証法を基礎とした特異な科学技術論を展開していたことを明らかにした。弾圧による断絶を伴いながらも、その影響は戦後にも及んでいる。 夏目は、山川健次郎の国家主義的な教育方針の展開と理学および工学との関係について分析を進めた。その結果、国際関係の変化に応じた山川の認識の進展の様子を、当時の社会進化論の言説などと関連づけて歴史的に整理することができた。その際には、帝国大学の設立と旧制高校や専門学校の教員人事との関係も分析した。この成果の一部は、「山川健次郎の科学思想と尚武主義―物理学・社会学・富国強兵―」と題する論考として執筆を終え、2017年に『明治大正期の科学思想史(仮)』という研究書の一章として発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
科学と工学に関する制度の検討は比較的容易であるため、全体として、より労力と時間を要する、背後にある思想等の分析に研究の重点が移りつつある。従来の検討課題に一定の結末をつけつつ、新たな問題の開拓と検討に向かっており、時間と労力は予期していたよりも必要になったが、全体としてはおおむね順調に進捗しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
科学と工学の分離と交流に関する、高等学校、帝国大学、学位といった制度上の問題については、わかりやすい形や印象的な事例を用いて全体像の描写を行うことを目指したい。具体的には、20世紀に物理学において生じた変革(相対論・量子論の出現)が、隣接の工学領域(電気工学など)にいつごろ浸透していったかといった課題を検討することが考えられる。 また、全体として学問とその制度の背後にある、科学観・技術観、あるいは科学論・技術論といった問題の重要性が次第に明らかになりつつあるため、今後はこれらについても十分な時間と労力を振り向けることとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
すでに入手した資料の整理・分析が主体となったこと、国内の出張が多く海外出張が実現できなかったことにより次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度に予定しながら調査できなかった資料について、29年度は調査・収集を行うが、そのための費用として使用する計画である。
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