本研究の目的は,第二次世界大戦中,化学工業統制会会長を務めた石川一郎(1885-1870)の個人文書(石川一郎文書)を通覧し,その膨大な史料の中から科学技術動員に関わる史料を探索して目録を作成するとともに,その史料から浮かび上がってくる産業界からみた科学技術動員の姿を明らかにすることである。 マイクロフィルム版石川一郎文書(全279リール)のうち,本研究に関係あると思われる約140リールを通覧した結果,以下のことが判明した。(1) 科学技術動員に関する史料は期待したほど多くない。また,まとまって存在しているわけではなく,広く薄く分散している。ある程度の分量があるものもあるが,多くは断片的な史料である。(2) 化学工業界の代表であった石川一郎は,数多くの研究動員関係機関・団体の委員や役員を務めていた。そのような会議の資料はそれなりにある。(3) 化学工業界における科学技術動員の主要な活動は,統制会の部会レベルで化学工業品ごとに設けられた技術委員会・協議会等における技術の向上や交流を目的とする活動であった。それは,国家や軍に主導された上からの動員というよりも,同業者間の協力による下からの動員であった。化学工業統制会全体の活動としては,技術交流委員会の設置と活動の開始があったが,成果を挙げる前に終戦を迎えた。 本研究で新たに明らかになったことは,上記の産業界における科学技術動員が,財界(日本経済連盟会)によって進められていた産業能率増進運動の一部であったということである。
|