研究実績の概要 |
Einstein, Podolsky, and Rosen (1935)は,量子力学は不完全であると主張した。しかし,アインシュタインはこの論文の議論には不満であり,Einstein (1948)において局所性原理と分離不可能性原理と現在呼ばれる原理を導入し,これらの原理に基づきEinstein, Podolsky, and Rosen (1935)とは異なる議論に基づいて量子力学は不完全であると主張した。 分離可能性原理とは,2つの空間的に離れた系はそれぞれ別々の状態をもつということを表す原理であり,局所性原理とは,ある時空領域における操作が他の空間的に離れた時空領域に影響を及ぼさないという原理である。Howard (1985)によれば,ベルの不等式は分離可能性原理と局所性原理から導かれ,ベルの不等式の破れは分離可能性原理が成り立たないことを意味していて,ベルの不等式の破れは局所性原理と両立可能である。 本年度は,代数的場の量子論において,局所性原理がどのように表すことができるかという問題を考えた。そして,ある時空領域に影響を及ぼしその時空領域と空間的に離れた時空領域には影響を及ぼさないような操作は完全正写像で表すことができることを示した。つまり,代数的場の量子論において,アインシュタインが考えた局所性原理における操作を完全正写像で表すことは正当化できる。このことによって,アインシュタインが考えていたことをより明確に表現することが可能になったと言える。
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