アインシュタイン・ポドルスキー・ローゼンは「物理的実在の量子力学的記述は完全と考えられうるか?」という題名の論文(以下,EPR論文)において,量子力学は物理的実在を完全に記述していない,つまり量子力学は不完全であると主張した。一方,アインシュタインは単独で分離可能性と局所性という概念を用いて,同様の主張の論文をいくつか書いている。分離可能性とは2つの空間的に離れた系はそれぞれ別々の状態をもつということを表す性質であり,局所性とはある時空領域における操作が他の空間的に離れた時空領域に影響を及ぼさないという性質である。それらの論文においてもEPR論文で使われた量子もつれ状態とよばれる状態を使って議論していて,いずれも量子力学は不完全であると結論している。しかし,EPR論文の議論とアインシュタインによる論文の議論は同一ではなく,相違点がある。「量子力学の完全性をめぐって-EPR論文とアインシュタインによる論文の相違点-」という論文では,この相違点を考察した。 情報科学においてEPR論文で使われた量子もつれ状態の性質などを積極的に応用しようという試みから量子情報の分野が誕生し,近年急速に発展している。近年,量子情報の分野で見いだされた量子力学に関する性質の観点から,量子力学の概念的基礎を考える試みがいくつかなされている。量子情報という分野が誕生するきっかけとなった量子もつれ状態や非可換性という性質に,量子情報に関わる性質の観点から,改めて光が当てられているのだ。「情報の観点からみた量子力学」という論文では,こうした量子力学的な性質を情報理論的な性質を導く試みを考察した。
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