研究課題/領域番号 |
15K01124
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
坂野 徹 日本大学, 経済学部, 教授 (70409142)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | パラオ熱帯生物研究所 / 阿嘉島臨海研究所 / 元田茂 / 川口四郎 / 阿刀田研二 / 沖縄 / パラオ移民 |
研究実績の概要 |
本年度は勤務校でサバティカルを取得し、沖縄国際大学客員研究員として沖縄に10ヶ月間滞在したため、主として沖縄で調査研究を進めるとともに、沖縄の関係機関で計3回パラオ熱帯生物研究所(以下、パラオ研)に関する研究発表を行った。 パラオ研はサンゴを中心とする熱帯生物の研究所であったことから、元研究員の中には、復帰後、沖縄に設立された熱帯生物の研究機関に関わりをもった者が複数存在し、その関係から沖縄各地にパラオ研に関係する資料もある程度所蔵されている。そこで、阿嘉島臨海研究所(沖縄)に所蔵されている元田茂(元研究員、戦後、北大教授)資料を中心に、パラオ研関係の資料を収集し、さらに元田、川口四郎(同、戦後、岡山大教授)、阿刀田研二(同、戦後、東北大教授)のことを直接知る研究者のインタビューを実施した。また、パラオ研が置かれたパラオ・コロール島には沖縄からの移民が多かったことから、沖縄には戦前のコロール島での暮らしを記憶している元パラオ移民の方も多い。そうした元パラオ移民の方にインタビューを実施し、パラオ研での研究生活についても貴重な情報を得ることができた。 それ以外に、福岡、鹿児島、東京でパラオ研に関する資料収集を実施するとともに、年度末にはパラオ研究者(文化人類学者)らとともにコロール島で現地調査を行い、現地に関する知見を増やすこともできた。 現時点までに明らかになった調査内容については、沖縄県立博物館・美術館(「「写真の<ポジション>─写真家と学術調査の記録をめぐって(第5回戦後沖縄研究コロキウム)」9月10日)、沖縄民俗学会例会(11月26日)、沖縄国際大学(南島研セミナー、2月6日)で研究発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のとおり、本年度は沖縄で研究生活を送ったため、沖縄とパラオ研の関係については、当初の予想以上に研究を進めることができた。とりわけパラオ研に雇い人(採集人)としてつとめていたパラオ移民の実像について、資料および関係者へのインタビューで情報を得られたことは大きな成果である。また、戦後、研究者にならなかったことから、ほとんど情報がなかった元研究員(島津久健)についても、各種機関での資料調査およびコロール島での現地調査、関係者への問い合わせなどである程度明らかになったことも大きい。 一方、沖縄での研究生活ゆえに、調査研究が不十分になった点も多い。当初は阿部襄(戦後、山形大教授)や畑井新喜司(パラオ研所長、東北大教授)の資料について収集・分析を進める予定だったが、ほとんど手をつけることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、前年度、十分に調査が進められなかったパラオ研関係者の調査研究を進めるとともに、次年度に刊行予定の研究書の原稿執筆を進める予定である。 なお、当初の予定では、本研究の最終成果となる研究書においては、パラオ研における研究にとどまらず、戦前パラオを含む南洋群島全域で行われた調査研究について、ある程度網羅的な叙述を計画していたため、それに関する調査も必須と考えていた。例えば、戦前、南洋群島各地で広範な民族調査を行うとともに、パラオ研関係者とも密接な関わりをもった土方久功(民族誌家、芸術家)についても、詳細な資料調査を予定していた。しかしながら、土方については、本年度、決定版とも言いうる研究書が刊行されたため(清水久夫『土方久功正伝』東宣出版)、それほど詳しい資料調査は不要になったと考えている。また、パラオ研関係者については、当初の計画以上に詳細な情報を得られる手がかりも得た。 したがって、パラオ研を中心に戦前の南洋研究の幅広い記述を目指すという、基本的方向性には変更はないが、よりパラオ研に特化した調査研究を進めていきたいと考えている。特に注目したいのはパラオ研の研究員たちが現地で書き記した研究日誌である。当該日誌は、当研究の申請時には所在不明となっていたが、サンゴ礁学会関係者の尽力により、故元田茂氏の書斎より再発見され、その後、東北大学資料館に寄贈された。日誌の取り扱いについては、まだ不明なことも多いが、当該資料を含め、パラオ研により焦点を当てた調査研究および原稿執筆を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
先述したように、本年度は、勤務校のサバティカルで沖縄(沖縄国際大学)に5月初めから3月初めまで滞在した。科研費の使用締め切りと沖縄からの引き上げ時期が重なったため、年度内で研究費を使い切ることができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、本年度に引き続いて研究資料を収集するとともに、主として国内旅費を使って資料調査・関係者へのインタビューを実施する予定である。そのための費用として使用する予定である。
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