本研究の最終成果は、2019年7月に研究書『〈島〉の科学者─パラオ熱帯生物研究所と帝国日本の南洋研究』(勁草書房刊)として公刊予定である。以下、本書の目次構成を紹介した上で、本研究の意義などについて述べる。 プロローグ:〈島〉にわたった科学者たち/第1章:占領と視察─第1次世界大戦と南洋研究の起源/第2章:南洋庁と現地調査(1)─民族誌と自然人類学/第3章:南洋庁と現地調査(2)─ヤップ島の人口減少をめぐって/第4章:「文明」から遠く離れて─土方久功と「裸の土人たち」/第5章:サンゴ礁の浜辺で─パラオ熱帯生物研究所の来歴/第6章:緑の楽園あるいは牢獄─パラオ熱帯生物研究所の研究生活/第7章:〈島〉を往来する─南洋学術探検隊・田山利三郎・八幡一郎・杉浦健一/第8章:「来るべき日」のために─戦時下のパラオ熱帯生物研究所とニューギニア資源調査/第9章:パラオから遠く離れて─パラオ研関係者のアジア・太平洋戦争/第11章:〈島〉が遺したもの─南洋研究と岩山会の戦後/エピローグ:科学者が歴史を記録するということ 以上の目次構成からもわかるように、本研究は、戦前、日本統治下(委任統治下)に置かれたミクロネシアのパラオ・コロール島に設置されたパラオ熱帯生物研究所(1934─1943年)の活動を中心とする日本の南洋研究の展開を、科学史の立場から跡づけようとするものである。日本の南洋研究史については、従来、文化人類学(民族学)の領域を中心に、個別の学術分野ごとにおこなわれてきた。だが、本研究では、人類学、民族学、生物学、医学等々といった学問区分にはこだわらず、戦前のミクロネシアにおける調査研究の総体を、知識生産の場である〈島〉に注目しながら描き出した。その意味で、本書は日本の科学史研究における「科学の地理学研究」(D・リビングストン)の初めての試みである。
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