研究課題/領域番号 |
15K01138
|
研究機関 | 科学警察研究所 |
研究代表者 |
菅原 滋 科学警察研究所, 法科学第四部, 主任研究官 (60356160)
|
研究分担者 |
石丸 伊知郎 香川大学, 工学部, 教授 (70325322)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 赤外分光イメージング / インク / 色材 / 文化財 / 法科学 / フーリエ分光 / ケミカルイメージング |
研究実績の概要 |
香川大学が開発しアオイ電子が製品化を試みている、ボロメータを用いた広視野中赤外ハイパースペクトラルイメージング装置を利用して、アルミ板上の接着剤、ニス、筆記具インク等を測定した。また、光沢紙も測定した。これらの結果から、本手法が文化財の保存修復に利用できる可能性が示された。 従来の可視・近赤外分光写真法では識別できない黒、赤、青の筆記具インクや接着剤、ニスをアルミ板上に乗せることで試料を作成した(試料1)。また、表面での光反射率が高い光沢紙(インクジェットプリンタ用の写真用紙)も試料とした(試料2)。測定装置は640×480画素のボロメータ検出器を備え、測定波長領域は8~14 μm、測定時間は約30秒であった。 測定データは数値解析ソフト(Matlab)を用いて解析した。試料1の測定データは、最初に、各試料が乗っている領域を選択し、その領域のスペクトルの平均値を各試料の代表スペクトルと名付けた。次に、すべての画素のスペクトルと各代表スペクトルを吸光度スペクトルに変換した後、各代表スペクトルと各ピクセルのスペクトル間で相関係数を計算した。そしてもっとも相関係数が高かった代表スペクトルを図に表示した。その結果、ほぼ正確に各絵の具の位置を特定できた。試料2の測定データは各点のインターフェログラムやスペクトルを観察したところ、十分なSN比で測定できていることが明らかとなった。 ボロメータを用いた広視野中赤外ハイパースペクトラルイメージング装置を用いることで、従来の可視・近赤外分光写真法では識別できないアルミ板上の筆記具インクや接着剤、ニスを識別することできた。また光沢のある紙のスペクトルも測定することができた。それゆえ、本手法を用いて文化財を検査すれば、異なる材料の分布が可視化される可能性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではボロメータカメラを検出器として利用した安価かつコンパクトな広視野赤外分光イメージング装置の開発を目指しているが、反射率の低い物体でも計測可能にすることが課題の1つであった。そのために試作機の改善が日々進んでおり、その結果コーティングを施した特殊な紙ならば、スペクトルの測定が可能になった。 また、測定データの解析方法についても、相関係数を用いた手法を用いることで、取り出したい情報を適切に抽出できるようになった。また、機械学習を用いた手法についても、現在実験的に検証している。さらに、これらの解析を高速に行うためのGUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)に優れたソフトウェアも開発した。 これまでのところ、アルミ板上の接着剤やニス、筆記具インクなどの測定とそのデータ解析などを行い、それらの結果を学会等で発表した。実用機の作成も進んでおり、光学系の調整などが従来よりも簡便になり、熟練していなくても調整が可能になった。光源については迷光の除去などが進み、SN比の高い測定が可能となってきた。 これまでのところ、アルミ板のような高い反射物体上にうっすらと有機物が乗っているような試料の場合には、ボロメータカメラを検出器として用いた広視野中赤外分光イメージング装置で測定が可能なことが明らかとなった。しかし普通紙のような散乱表面上にインク等が乗った場合には、現時点では測定できない。そこで波長1~2.3μmの広視野近赤外分光イメージング装置で代替可能かを検証するために、測定を行った。今後解析を進めていく。
|
今後の研究の推進方策 |
測定器の改善(たとえば光源の配置・数の改善など)を引き続き行うことで、低反射率の試料でも計測可能となるようにしていく。また、普通紙の上に乗った筆記具インクなど、現状の装置では測定が困難な試料については、波長1~2.3μmの広視野近赤外分光イメージング装置で測定を行ったので、その結果を解析することで、代替可能性について検証していく。また、光沢の強い紙ならば現時点の広視野中赤外分光イメージング測定器でも測定が可能であったので、様々な種類の光沢紙を測定したり、光沢紙の上にインクを乗せたりしながら測定および解析をし、本手法の有用性を検証していきたい。 今後測定していく試料は、法科学に関連した試料として印刷物や筆記文字、身分証、紙幣などを、文化財科学に関連した試料として陶器上の接着剤、絵画上のニス、布などを想定している。 測定結果の解析方法として、主成分分析や相関係数を用いた手法については、これまでにその有用性を実証できた。現在、機械学習を用いた解析法についてその有用性を検証しているところであり、さらに研究を進めていきたい。特にこれまでハイパースペクトラルイメージングデータの解析にあまり用いられてこなかった手法を、新たに採用していきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
分担研究者の研究が進捗し装置の性能が高まったため、装置の性能を向上させるための物品購入の必要性が減少した。代わりに、開発された装置をレンタルしたり実験をしたりするための費用や、データ解析プログラムの開発ための費用が、増加している。
|
次年度使用額の使用計画 |
光源の配置・数の改善などにより、ボロメータカメラを検出器として用いた広視野中赤外分光イメージング装置の高感度化の実験的な検証を行っていくので、そのための費用として使用する。また、ボロメータカメラではどうしても検出できない低反射率の試料に対しては、高感度なMCT検出器を備えた検出器で測定する機会を作るか、あるいは中赤外ではなく近赤外で代替可能か否かを検証していく予定なので、そのための費用として使用する。さらに測定データの解析方法の工夫により、S/N比の小さなデータからでも特徴量抽出が可能になったり、スペクトルが未知の試料でもその存在を特定できるようになると考えられるので、そのためのソフトウェアの開発にも、予算を使用していく。
|