研究課題/領域番号 |
15K01139
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
秋山 忍 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究主幹 (50196515)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 分類学 / おし葉標本 / 江戸時代 / 博物学 / 自然史 |
研究実績の概要 |
伊藤圭介(1803-1901年)は、わが国の植物学の発展上にある江戸時代末から明治初期にかけて重要な役割を果たしたことで知られる、代表的な本草学者がである。他の同時代の学究と異なり圭介は、1来日したシーボルトから直接植物学を学び、習得した知見を明治時代の近代植物学確立の基礎に役立てたといわれている。本研究では、1)国内外に分蔵される圭介の植物標本・資料を分析して、2)圭介がどの程度、当時のヨーロッパにおける植物学を理解し、3)そこで得た知識を日本における植物学の確立と発展に役立てることができたのか、についての考察に欠かせないデータの集積を行った。 分析の対象とした伊藤圭介関連標本群のうち、国内にある圭介の標本は、国立科学博物館に未整理状態で収蔵されている。平成27年度に引き続き、これらの標本について1)植物の異同を調べ、2)どれが1点の標本であるかを確認し、3)標本に付随する紙片に記入された文字データの解読を行い、4)将来のデータベースに利用できるよう、整理を進めた。 他方、国外にある圭介の標本として、最も数も多く、かつ重要な標本であるオランダの生物多様性センターのシーボルトコレクションに含まれる圭介標本を閲覧し、これらの一部について分類学の立場から分析を行った。さらに、およびドイツ・ミュンヘン植物標本館において圭介標本の収蔵の有無を調べた。平成28年度に検討を行った標本の中で、ムラサキは、生物多様性センターに収蔵される圭介が採集したと考えられる標本が、Lithospermum murasakiの新種発表の際の原資料として利用されたことを明らかにした。また、同じくナチュラリス生物多様性センターのMitchella undulataツルアリドオシの圭介標本は、シーボルトによりラベルが手書きされているものの原資料として利用されたことを示す証拠はみつからなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
国立科学博物館にある未整理標本が、予想を越える虫害等の損傷を受けているだけでなく、標本そのものが非常に脆く、壊れやすいため、その取り扱いに手間取ったことが最大の理由である。加えて、1点の畳紙に複数点の枝などが挟まれている場合が多く、植物の異同を調べ、どれが1点の標本であるかを見極めるのが難しく、検討に時間を要した。さらに、毛筆による手書きの文字は予想を超え判読が難しく、データ化のための文字入力に適した人材を得たものの、データ入力作業には予想以上の時間を要した。 オランダ国ライデンの圭介標本は、植物標本室がライデン大学から生物多様性センターに移管となり、国家予算の都合で、やや突然に別の場所に標本が移動し、現在は仮置き状態にあるため、標本の取り出し等の閲覧作業に予想以上の時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画の則して研究を推進する。当初予期していなかったこととして、標本の損傷等への対応がある。平成28年度より、畳紙に入った複数の標本を1点ずつ新たに紙に挟むことにより、取り扱いの便を図ることにした。今後もこのやり方を取り入れ、作業の促進を図ることにする予定でいる。 分類学的な解析、および文字データの解読等、研究の基本は従前と変わることなく、整理を進めていく予定である。また、当館に収蔵される標本の損傷等への対応を優先的に進め、今後の広範な利用に供することができるように、標本の保存を図ることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
データ化するための文字入力に適した人材を得たが、毛筆による手書きの文字は判読が困難な場合が多く、予定作業を進展することができなかった。また、ライデン大学の突然の標本移動のため一部予定していた調査ができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
圭介とその関係者の毛筆字判読のためのサンプル帳を製作したので、入力のスピードアップ化を図ることで、今年度終了時までに昨年分の遅れを取り戻す計画である。また、ライデン大学の標本移動も一段落したので、今年度は予定通り作業を進める計画である。
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