伊藤圭介(1803-1901年)は、わが国の植物学の創生期にある江戸時代末から明治初期にかけて重要な役割を果たした代表的な本草学者である。圭介は同時代の他の学究と異なり、江戸時代に来日したシーボルトから直接植物学を学び、習得した知見を明治時代の近代植物学確立の基礎に役立てたといわれている。本研究では、1)国内外に分蔵される圭介の植物標本・資料を分析して、2)圭介がどの程度、当時のヨーロッパにおける植物学を理解し、3)そこで得た知識を日本における植物学の確立と発展に役立てることができたのか、についての考察に欠かせないデータの集積を行った。分析の対象とした伊藤圭介関連標本群のうち、国内にある圭介の標本は、国立科学博物館に未整理状態で収蔵されている。平成29年度に引き続き、これらの標本について1)植物の異同を調べ、2)どれが1点の標本であるかを確認し、3)標本に付随する紙片に記入された文字データの解読を行い、4)将来のデータベースに利用できるよう、整理を進めた。 また、首都大学東京所蔵のシーボルトコレクション中の圭介標本についても、存在を確認し、データベース化のためのデータを収集した。 国外にある圭介の標本として、質量共に重要な標本はオランダの生物多様性センター所蔵のシーボルトコレクション中の圭介標本である。この標本を継続して調査し、分類学の立場から分析を行った。さらに、ドイツ・ミュンヘン植物標本館において、ツッカリーニがシーボルトならびにビュルガーより入手した植物標本の中に圭介標本が含まれていたか否かを調べた。これらの研究成果は、平成30年度に論文にまとめた。
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