伊藤圭介は文政年間に来日したシーボルトから直接分類学の指導を受けた。著作、『泰西本草名疏』はその事実を伝えるが、植物学の研究に必要な資料を標本として収集・保存・分類するという、基礎的訓練をどの程度受けたのかは不明であった。今回、国立科学博物館収蔵の未整理標本の予備的調査で、圭介が採集または収集したと推定される標本がかなり見出された。このことは、圭介自身が植物を採集し、標本を作成し、ある程度分類学的な整理を進めていたことを物語るものであり、日本における近代植物学は一部とはいえ、すでに幕末に端緒を開いていたことが即物的にも明らかになった。
|