研究課題/領域番号 |
15K01150
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
朝日田 卓 北里大学, 海洋生命科学部, 教授 (00296427)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 東日本大震災 / 博物館機能復興 / 博物館教育指導者養成 / 地域文化財 / 教育普及事業 / 人材不足対策 / 岩手県陸前高田市 / 小友浦干拓地 |
研究実績の概要 |
本研究は博物館教育指導者養成を目的とした支援システムを構築しようとするものであるが、初年度は岩手県陸前高田市をモデルとして市の文化財等保存活用計画と我々がこれまでに開発した博物館教育プログラムを照らし合わせながら、博物館指導者養成に使用可能なものを開発することから始めた。 市は津波により浸水域となった小友浦干拓地を干潟に再生する構想を掲げているため、干潟再生にも有用なプログラムを開発できれば市民の意欲や興味を喚起するものとなる。そこで基礎的知見を得るための生物環境調査を1年にわたって行い、魚類や底生生物、海藻、鳥類、底質、水質等の科学的データを得た。魚類ではサケやアユの稚魚など産業上有用種が浸水域を利用していることが確認され、成育場として機能していることが示唆された。鳥類は天然記念物のコクガンや絶滅危惧種のツクシガモ、ハヤブサなどが出現し、特にガンカモ類の餌場となっていることが確認された。底生生物や海藻類もそれぞれ59種と23種を確認し、多くの生物が浸水域となった干拓地に進出していることが明らかとなったが、震災前は公共工事の残土置き場となっていたことから、底質は礫が多く通常の干潟とは異なる特徴を示した。底生生物では、特にアサリが砂地に多く生息していたが、震災年も含めて毎年幼生が来遊して定着していることをアサリの年齢査定によって確認した。これらの結果から指導者養成に用いるプログラムの一つを、小友浦干拓地にアサリを用いた学習場をつくるものとすることを決め、その内容を市立博物館と検討している。 地域文化財群を活用したプログラムとしては、震災の影響が少ない山間部の化石産地を利用するものから開発することとし、化石レプリカ作製法の検討や関連実習としてのイカの解剖ワークシートを作成した。イカの解剖実習は被災地の小学生(親子)を対象として試験的に実施し、アンケート調査等を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
博物館教育指導者養成に用いるプログラムの開発では、震災により浸水域となった小友浦干拓地における生物環境調査が順調に進んでおり、その成果を用いたプログラムの検討を陸前高田市立博物館と共同で行っている。また化石産地を活用したプログラムの開発では、関連実習としてイカの解剖実習プログラムを作成し、実習用ワークシートを用いた体験実習を被災地の小学生の親子を対象に実施した。この試行の結果を受けてワークシートを改良し、被災地の小学校に配布するべく印刷中である。さらに「川のがっこう」という学習プログラムを実施する指導者用のティチャーズガイドブックを作成中であり、間もなく印刷する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、博物館指導者支援プログラムの開発と実施を継続しながら、初年度の成果を用いた小友浦干拓地の干潟再生に関する市民公開シンポジウムを開催する。これにより市民に支援プログラムへの参加を促し、また同時に情報提供を行うことなどによって博物館指導者養成を支援する市民団体の土台作りを行う計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
化石産地を活用したプログラムに関連したイカの解剖実習用ワークシートを作成し、被災地の小学生親子を対象とした体験学習会に用いたが、アンケート調査や被災地の教育関係者への聞き取りを行った結果、改良点が明らかになった。そこで改良したものを印刷することとしたが、印刷の発注が年度末にかかってしまったため、印刷費等を年度内に執行することができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
前述したイカの解剖実習用ワークシート2000部の印刷費に使用するほか、関連した教材の購入費用などに使用する計画である。
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