研究課題/領域番号 |
15K01153
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研究機関 | 北海道博物館 |
研究代表者 |
青柳 かつら 北海道博物館, 研究部, 学芸員 (30414238)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 高齢者 / 地域創生 / 地域資源 / 知識管理 |
研究実績の概要 |
急速に進む過疎・高齢化により農山村では、集落の維持や地域資源の管理が危機に瀕している。地域博物館を核に、地域創生と高齢者福祉に資する地域資源学習プログラムを開発することを目的に、以下の実態把握と2モデル地での実践研究を行った。 1 高齢者と協働する博物館活動の実態把握と課題の明確化 ①博物館アンケート調査:北海道博物館協会加盟116 館園を対象に郵送法アンケートを実施し、2003年に行われた全国の博物館園を対象とした調査結果と比較した。その結果、北海道の特性として、高齢者利用が「多い」、「少ない」、「無関心」といった館園層の分化が見られ、展示・普及行事における高齢者への訴求力や企画力の弱さが明らかになった。多くの館園は、高齢者受け入れのためのソフト、ハード面を整備する資金、人員、ノウハウ不足等を認識していた。高齢者の参画を促し簡便に実施できる活動プログラムの開発が急務であることが確認できた。②先進事例調査:北名古屋市にて回想法の展開場面、名寄市にて世代間交流活動を調査した。その結果、回想法リーダーやコ・リーダーの具体的役割、参加者の主体性を引き出し、連想をつなげて会話を楽しむ場づくり等、運営手法の実際や支援ナレッジを収集できた。 2 高齢者と協働する地域資源学習プログラムの作成 ①地域資源の抽出と地域ナレッジの形式知化とプログラム作成:朝日町(9回)、東旭川町(2回)にて各協力機関と連携の上、地域学習行事や茶話会を企画・開催できた。東旭川町においては、地域の魅力の再発見、世代間交流と地域文化の継承を目的とする「地域資源マップ(2017年3月完成予定)」の製作チームを組織化でき、実行計画づくりに着手できた。②支援ナレッジの形式知化:朝日町でのプログラム「留学生と一緒に山菜調理」を記録化し、高齢者ケアの上での留意点などを抽出できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の各項目とも、ほぼ遅滞なく実施できている。 モデル地の1つ、朝日町の資料室ボランティアを対象に、本研究のプログラム評価アンケートを行ったところ、「活動への参加は、自分の心身の健康にも役だっている」「子どもたちに、地域の自然や文化を伝えることは、やりがいがある」のほか、主観的健康観、主観的幸福感を「ある」とする回答が各70%以上を占めた。同アンケートは、研究項目「2 プログラムの作成・実践と評価」として、2016年度に実施を予定していたが、今年度先駆けて試行・着手でき、高齢者ケアへの効果を把握することができた。 また、早期から情報発信や人脈づくりを行った結果、研究代表者は、北海道博物館協会とFMさっぽろ村ラジオより講演依頼を受け、第54 回北海道博物館協会研究大会および、同ラジオ番組にて研究成果を話題提供する機会を得た。また、名寄市立大学保健福祉学部教授の協力により、名寄市内での世代間交流活動を継続的に調査できる関係が形成できた。 なお、当初予定していた「博物館アンケート調査」では、今年度予定していた、館園の組織情報の定量化と多変量解析は着手できなかった。しかし、2003年全国博物館園対象アンケート調査結果との比較分析を通じて、北海道の博物館園の地域特性を把握できたほか、クロス集計によって、質問相互の関係性などを把握できた。多変量解析による館園の類型化、質問相互の関係性等の分析は、次年度の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
1 高齢者と協働する博物館活動の実態把握と課題の明確化 ①博物館アンケート調査:前年度調査データを使用して、多変量解析による館園の類型化、質問相互の関係性等を分析する。②先進事例調査:岩手県宮古市、福井県勝山市で高齢者プログラムの現地調査を実施する。 2 プログラムの作成・実践と評価 ①プログラムの作成と実践:前年度に引き続き、検討チームにて作成作業を行う。作成したプログラムについては、例えば、高齢者ケア、地域の魅力の発信、地域交流といった目的に応じて、順次、研究協力者と連携して友の会会員向け行事、町内外からの参加を公募する自由参加型行事として実践する。異世代交流やナレッジの伝承を目的とするプログラムについては、地域の子ども達への教育活動として実践する。東旭川町では、既述の「地域資源マップ」について、2017年3月完成を目指して企画製作会議を実施し、作業成果を印刷製本する。マップは町内外に配布して普及を図る。②支援ナレッジの形式知化:検討チーム、同マップ製作チームでの議論を円滑に進め、意見集約する上で役だったノウハウ、高齢者と異なる属性の対象者が混ざるプログラム実施上の配慮点などを、モデル館毎に支援ナレッジとして記録する。③プログラムの評価:プログラムの実施主体(研究協力者スタッフ)、客体(高齢者・中学生・小学生)、第三者(教員等)の意識把握により、学習プログラムの評価指標を抽出する。これらは、2016年度より研究協力者となった北海道博物館学芸員尾曲香織氏(専門:民俗学)とともに共同実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、旅費、備品購入費等が計画値よりも少額となったことが理由である。旅費は、連携研究者との道内共同調査が、連携研究者多忙のため実現できなかった。2016年度は、新たな研究協力者と道内共同調査等を実施して、研究代表者のみでは不足する専門領域を補う予定である。また、当初予定の岩手県先進事例調査は、研究代表者多忙のため実施できなかったが、調査受け入れについて相手方より内諾を得ており、現在、事前調査及び情報収集を進めている。 備品購入は、映像記録のためのビデオカメラ等の選定・購入ができなかった。映像・アーカイブ製作を専門とする研究者の助言を得て、適切な機種を選定の上、2016年度に購入したい。 当初計画との差額は生じているが、研究計画の各項目とも、ほぼ遅滞なく実施できており、口頭発表や講演、論文等によって成果が得られている。研究計画は適正に遂行されていると考える。
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次年度使用額の使用計画 |
既述のように、次年度は、新たな研究協力者と道内共同調査、先進事例調査における旅費、ビデオカメラ等の備品購入費、報告書編集・作成関連ソフト等の物品購入費を支出予定である。
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