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2017 年度 実施状況報告書

10年後の被災都市におけるミュージアムの教育プログラム―ニューオリンズを事例に

研究課題

研究課題/領域番号 15K01154
研究機関中央大学

研究代表者

横山 佐紀  中央大学, 文学部, 准教授 (70435741)

研究期間 (年度) 2015-10-21 – 2019-03-31
キーワードトラウマ / ミュージアム / 災害と記憶 / オーラル・ヒストリー
研究実績の概要

今年度前半までの文献調査や関連資料の渉猟の結果、アメリカのミュージアムにおける「トラウマの語り」の成立過程を考察するにあたっては、ワシントンDCのホロコースト・ミュージアムをひとつのエポックとして捉える必要があるとの結論に至った。そこで今年度は、当初から対象としていたニューオリンズ(ハリケーン・カトリーナ展示関連ミュージアム)、ニューヨーク(9.11展示関連ミュージアム)の他に、ワシントンDCのホロコースト・ミュージアムやニューヨークのJewish Heritage Museumを調査対象に加え、アメリカのミュージアムにおける負の遺産の語りを幅広い文脈から捉えることを試みた。
現地調査を行ったミュージアムは、以下のとおりである。ワシントンDC:ホロコースト・ミュージアム(展示調査)、ニューヨーク:911 ナショナル・メモリアル&ミュージアム(展示および教育プログラムの調査)、Jewish Heritage Museum(ホロコースト関連の展示調査)、911 Tribute Museum(展示調査および担当者3名へのインタビュー調査)、ルイジアナ州博物館(ハリケーン・カトリーナ関連展示調査)、The Historic New Orleans Collection(資料調査および担当キュレイター/ヒストリアンへのインタビュー調査)。
これらを通じて、インタビューイーとなった担当者とのリレーションを築くことができたことに加え、911 Tribute Museumにおいて行われているサヴァイヴァーによるウォーキング・ツアー・プログラムの成立過程や、ハリケーン・カトリーナの被災直後に現地入りし支援活動を行った人々へのキュレイターによるオーラル・ヒストリー(The Historic New Orleans Collection)の状況などを聞き取ることができた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

「概要」にも記したとおり、今年度の重要な成果は、①ニューヨークの911 Tribute Museum(以下、911TM)において実施されている911サヴァイヴァーによるウォーキング・ツアー・プログラムの担当者へのインタビュー、②ニューオリンズのThe Historic New Orleans Collection(以下、THNOC)がハリケーン・カトリーナ直後に行った、支援活動従事者へのオーラル・ヒストリー担当者へのインタビュー、以上2点である。911TMのツアーは、サヴァイヴァーがボランティアとして自らの経験を語るという内容であり、ボランティア・コーディネーターを務める担当者2名、およびプログラム全体の統括を担当する責任者に詳細を確認することができた。これを通じて、ボランティア(すなわちサヴァイヴァー)の何名かは東日本大震災後の福島を訪問して福島の被災者との交流を行っていること、また、広島で被爆した少女が折った「サダコの折り鶴」のひとつが遺族によって911TMに寄贈されていることなどが明らかとなり、911TMがトラウマの個別性や差異を超えたサヴァイヴァーどうしのネットワークを築こうとしていること(あるいは築きうるミュージアムを目ざしていること)が推測された。
一方、THNOCではコミュニティの歴史としてのオーラル・ヒストリーを重視しており、カトリーナ直後にも支援関係者のオーラル・ヒストリーを記録し、音声および書き起こしが公開されている(THNOCにおいてのみ)。このプロジェクトを担当したキュレイター/オーラル・ヒストリアンにプロジェクト概要を聞き取り調査し、モノの集積ばかりでなく、あるいは非常時に限らず、ミュージアムにおける「語りの集積」の重要性について貴重な示唆を得ることができた。本年度の調査は、「モノと語り」という新たな方向性を本研究に与えるものであった。

今後の研究の推進方策

ウォーキング・ツアーやオーラル・ヒストリーなどの調査を通じて、本年度はミュージアムにおける「語り」の重要性について新たな認識を得られた。これを踏まえ、最終年度は、被災の記憶の保存における「モノと語り」をテーマとして研究を進めることとする。
具体的には、①国内外のミュージアムにおける「オーラル・ヒストリー」関連プロジェクトについての情報収集(災害やトラウマ体験に限らず、地域や共同体の記憶を伝える手段としてのプロジェクトやプログラムも対象に含める)、②オーラル・ヒストリーに関する文献や情報の渉猟、③現地調査(国内外のミュージアム)、以上3点が中心となる。③の現地調査については、ニューヨークのTMのボランティアで福島を訪問したボランティアへのインタビュー調査を先方の担当者に交渉しており、可能であれば今年度中に実施する。さらに、ミュージアムという制度に関連する様々な領域の文献調査、資料調査を引き続き幅広く行い、成果は論文として発表予定である。

次年度使用額が生じた理由

申請者の異動(国立西洋美術館から中央大学へ)に伴い、当初予定していた調査を充分に遂行することができなかったため、次年度使用額が生じた。2018年度はアメリカでの現地調査に加え、国内の関連機関(自然災害を伝えるミュージアムや、戦争関連ミュージアム、あるいはこれらに関連する企画展など)を行なう。また、関連領域の文献を幅広く渉猟し、調査研究に必要な機材(PC、スキャナ、プリンタなど)の整備も今年度重点的に進める計画である。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2017

すべて 学会発表 (1件)

  • [学会発表] 被災の記憶とミュージアム-10年後のニューオリンズとニューヨーク2017

    • 著者名/発表者名
      横山佐紀
    • 学会等名
      立教大学ミュージアム共同研究会

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公開日: 2018-12-17  

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