本研究科課題では,霞ヶ浦を対象として現在の水収支を明らかにすること,過去40年間の水収支変化を明らかにするとともに, その変化要因を明らかにすることを目的としている. 一般に,ある流域や水体に係わる水循環過程を明らかにすることは,地域の自然環境を理解する上で極めて重要である.また霞ヶ浦については,国内第2位の面積をもち水資源などに大きな影響を持つにもかかわらず,一部の水収支項を扱った研究を除くと包括的に水収支研究の対象とされたのは,村岡(1981)の一例のみである.一方で,村岡(1981)の扱った1970年代から40年ほどが経過し,その間に,流域の土地利用変化,霞ヶ浦開発事業や常陸川水門の閉鎖など多くの水循環,水収支に影響を及ぼす変化が生じている.さらに,この40年程は,平均気温上昇などに代表される急激な気候変化が生じた時期に当たり,その水循環等への影響評価は科学的に極めて重要なテーマとなっている.以上,土地利用などによる流域内部の変化要因,気候変化に代表される流域外部の変化要がともに急激に変化したことから,現在の水収支を評価することが高く望まれるのである. 2019年度には,昨年度までに求めた霞ヶ浦湖面の蒸発量と熱収支項の水平分布の結果を論文として取りまとめ,公表した.また,対象期間を5年に取った長期平均の結果を論文としてまとめ,投稿した.新たに得られた知見をさらに詳しく調べるために,船舶を利用した移動観測による蒸発量測定を行い,今後の研究に利用できる方法論の確立が出来た.全体として,霞ヶ浦の水収支項の地図化が行われた.蒸発量,河川流量,流出量などは過去と比べ,顕著な差はないのに対し,工業用水や上水用の取水量は増加,農業の水利用量は若干の減少であることが分かった.用水量の変化は工業化や流域人口の増加,そして灌漑方法の変化などを反映したものと考えられた.
|