研究課題/領域番号 |
15K01160
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
吉田 圭一郎 横浜国立大学, 教育人間科学部, 教授 (60377083)
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研究分担者 |
比嘉 基紀 高知大学, 教育研究部自然科学系理学部門, 助教 (60709385)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 植生帯境界 / 地形ー植生関係 / 森林動態 / 更新パターン / 植生分布 |
研究実績の概要 |
本研究では,植生境界域を調査対象に,1)地形と植生分布との対応関係を明らかにするとともに,2)各森林における更新動態プロセスを明示し,3)安定した立地における地形と植生分布との関連性を考察することを目的としている.平成28年度までに,以下のような調査・研究を遂行した. 利尻島では,標高150~450mにおいて標高50m毎に400㎡の調査区を設けて植生調査を行った.その結果,利尻岳東斜面における標高に沿った植生分布は表層物質の差異と対応しており,植生構造や種組成の解析から,種毎に異なる更新動態プロセスとの関連性が示唆された.仙台・鈎取山国有林では,1961年から継続されている調査データに基づき,50年間のモミ-イヌブナ林の森林動態を解析した.その結果,モミとその他の主要な落葉広葉樹とでは更新パターンが異なっていることが分かった.また,林冠層を構成するモミの立木位置の詳細な分布図を作成し,その空間分布パターンの動的な解析を試みた.箱根・函南原生林では,林冠優占種のブナとアカガシについて,植生帯境界域における森林の動態に関わる幹生長と気候条件との対応関係について解析した.その結果,分布上限ほどアカガシの幹生長と気温との対応関係が顕著になることを明らかにすることができた.また,既設の3カ所の大面積調査区(100×100m,標高600m,700m,800m)の再調査を実施し,これまでに蓄積された10年間のデータとともに地形と植生動態との関連性について解析した.その結果,全ての調査区において過去10年間は種組成の変化はみられないものの,谷部と比べて尾根部では常緑広葉樹の増加に伴って立木密度の空間的な不均一性が増大していることが明らかとなった. これらの調査解析結果は,関連学会において発表するとともに,学術雑誌に投稿するための論文としての取りまとめを行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画のうち,利尻島における無人飛行機を用いた植生分布の写真測量については,平成28年9月の大雨とそれに伴い調査予定地付近で発生した大規模な土石流のため,平成28年度中に調査を遂行することができなかった.そのため,利尻島については,それまでに得られたデータによる解析を中心に調査研究を行った.利尻島以外の仙台・鈎取山国有林と函南原生林における調査研究については,研究協力者や関係各所の協力を得て,研究計画で当初予定していた調査を実施することができた.また,調査と並行して,得られた調査データの解析を行い,取りまとめた結果については関連学会で発表するとともに,一部の結果については学術論文として学術雑誌に投稿中である.これらのことから,「おおむね順調に進展している」と評価した.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は各調査地において,以下のような調査研究を行う予定である. 1.利尻島:利尻島では,これまで調査を行なってきた沓形および種富溶岩上だけでなく,土石流等による撹乱を受けて,地質や地表面物質の差異と植生分布との対応が明瞭に生じている火山山麓扇状地を調査地として加え,地形および標高傾度に沿った植生調査を実施する.また,各調査区において採取した林冠構成種(エゾマツ,トドマツ,ダケカンバなど)の年輪コアサンプルの解析を進め,森林の齢構造と植生構造や林冠構成種の生長曲線などから,各樹種の更新様式を明らかにする. 2.仙台・鈎取山国有林:仙台・鈎取山国有林では,これまでに得られた長期の植生データを解析し,特に生活史ステージ毎の加入率や死亡率などからモミ-イヌブナ林の動態モデルを構築し,50年間の森林動態を実証的に把握する.また,主要な林冠構成種であるモミの空間分布パターンと地形要素との対応関係について地理情報システムを用いて明らかにするとともに,過去の空中写真判読結果を援用し,モミの更新動態と地形との関連性について検討する. 3.箱根・函南原生林:箱根・函南原生林では,2004年から2015年まで継続して取得してきた毎木調査データの解析を進め,標高や尾根-谷傾度に沿った林冠構成種の更新プロセスの変化について把握し,常緑広葉樹林と落葉広葉樹林それぞれの森林動態を明らかにする.また,空中写真判読から得られた林冠層の植生分布の経年変化と,年輪コアサンプルの解析から得られた結果とを関連づけ,常緑広葉樹林と落葉広葉樹林との植生帯移行部における森林動態と地形を背景とした立地条件の空間パターンとの関連性について検討する. 平成28年度までと同様に平成29年度に得られた成果については,積極的に関連学会において発表するとともに,国際的な学術雑誌等にて積極的に公表する.
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次年度使用額が生じた理由 |
利尻島において無人飛行機による植生分布の写真測量を平成28年10月に実施する予定で準備を進めていたが,調査直前の平成28年9月の大雨に伴う土石流が調査地付近で発生し,その後,調査地付近への立ち入りには危険が伴うという理由で関連諸機関から調査許可を得ることができず,調査を実施することができなかったため.
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次年度使用額の使用計画 |
無人飛行機による写真測量を実施した場合,そこから得られたデータの解析を研究期間内に遂行することが困難である可能性がある.そのため,この調査の補完として,地形と森林の更新動態プロセスとの対応関係が明瞭に表れている利尻岳東斜面の火山山麓扇状地に新規の調査区を設けて,詳細な植生データを取得することとする.新たな調査データを取得するため,平成29年度における利尻島への調査は,無人飛行機による植生調査を含めて3回実施することとし,十分な人員を手配して着実なデータ取得を目指す.既に,1回目の調査については外部の研究協力者とのスケジュール調整済みであり,複数回の調査を実施することで本研究計画に資するデータの取得が十分可能であると考える.
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