本研究課題では、地理学的に東アジアと西太平洋の間に位置する東シナ海に着目し、その海面水温偏差が気候変動に果たす役割を明らかにした。東シナ海における海面水温変動は北半球の春季に極大を持つ季節性を示し、1979年から近年にかけて上昇傾向を持つことがわかった。この東シナ海における海面水温偏差は、エルニーニョに代表されるような太平洋広領域の海面水温変動とは関係が弱く、東シナ海に限定された変動であることが確認された。 この東シナ海の海面水温の上昇傾向は、気候学的な風向が北東風から南西風に変わる春季に終了していることから、大気海洋相互作用の結果として生じていることが示唆された。解析の結果、地表面付近の風速の減少による海面からの蒸発の抑制効果と、海洋表層の混合の効果によって、海面水温の上昇が説明できた。 春季にピークを持つ海面水温偏差は、海面水温の東西傾度の変化を通して中国南東部における近年の降水量の増加を説明できることが示唆され、そのメカニズムは既往研究とも整合的であった。一方、西太平洋モンスーンの開始の変動には東シナ海/南シナ海だけでなく、フィリピン海の海面水温偏差が重要であることも明らかになった。また、東シナ海/南シナ海における海面水温が、モンスーンの季節内変動の長期変動に寄与している結果も得られた。 東シナ海における海面水温偏差は、大気海洋結合モデルにおいては西太平洋域の気候学的な場の再現性が同様に観測値と同様の変動パターンを得ることは難しかったが、最終年度では全球雲解像モデルに海面水温を与えた実験結果から、東シナ海の海面水温偏差に対する夏季アジアモンスーンの応答については確認することができた。 本研究課題では主に観測データの解析を通じて、東シナ海の海面水温偏差がアジア域における冬季から夏季の気候変動を繋ぐことを示し、今後の季節予報、気候変動予測に重要な領域であることを明らかにした。
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