研究課題/領域番号 |
15K01194
|
研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
嶋崎 真仁 秋田県立大学, システム科学技術学部, 准教授 (40293138)
|
研究分担者 |
佐藤 公俊 神奈川大学, 工学部, 助教 (60609527)
八木 恭子 首都大学東京, 社会科学研究科, 准教授 (80451847)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | サプライチェーン / 企業間提携 / 供給リスク / 数理モデル / 在庫管理 / 数理ファイナンス / 農業 |
研究実績の概要 |
本研究は企業間の提携によりサプライチェーンにおける供給リスクを低減するための生産在庫政策および契約評価モデルの開発を行なうことが目的である.本年度は契約放棄権を認めたモデルに関する研究に取り組んだ.生産者(売り手)と卸業者(買い手)が契約している状況において,生産者は生産物を契約価格で取引するべきか,または契約を放棄して市場で取引するべきかを長期にわたる総利益が最大となるよう決定することを目的とする.もし,市場価格が契約価格よりも高い場合には,違約金を支払い,契約を放棄すべきである.このような契約放棄に関する意思決定モデルは先行研究のHakson and Seshadri (2007)により提案されているが,生産者の最適な放棄戦略については十分に議論されていない.本年度は,先行研究において市場価格の変動が2項過程に従う場合に権利放棄をもつ契約オプションがアメリカンコール型オプションに退化することを示した.その後,数値計算により,オプションの価値を評価し,各期における市場価格に基づく最適な契約放棄領域を視覚的に示した. このモデルでは,生産量が計画期間を通して一定であると仮定しているが,生産リスクのある場合には生産量が各期で不確実に変動する.したがって,本年度の後半ではこの仮定の緩和を試みた.これにより,市場価格の変動だけでなく,供給リスクに伴い生産者が契約した必要数を準備できない場合にも契約の放棄を行なう可能性を含む放棄オプションの評価が可能となる.次年度は当モデルの解析を行なう予定である. また,上記モデルの構築と平行し,農産物の直接取引に関するヒアリングや公開データの整理を行った.本年度は秋田県の由利牛および比内地鶏のサプライチェーンを調査し,入手可能なデータや契約状況について把握した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目的は,供給リスクの下での契約放棄を考慮した評価モデルの定式化と最適政策の証明および数値計算である.まず,各期における生産量を一定とし,供給リスクのない場合に生産者の最適な方策を示すことができた.現在は生産量が不確実な状況下でのモデル構築まで進んでおり,次年度以降の見通しがついていることから,目的はおおむね達成できたといえる.また,事例研究では,秋田産の食肉業者への調査等により,流通ルートおよび価格決定のメカニズムを明らかにした.提案モデルにおけるパラメータ推定に必要なデータが入手できたことから,達成度の評価として,順調に進展しているといえる.
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度は供給リスクの下での契約放棄モデルの最適政策を示すとともに,数値計算を通して,市場価格の変動パラメータや契約放棄時にかかる費用等のパラメータが最適政策に与える影響を明らかにする.さらに,供給リスクの高い場合に,契約放棄オプションが生産者の利益に対して,どの程度有効であるかを示すことを第一の目標とする.その後,平成28年度に収集した食肉のデータを用いて,現状の契約を評価し,その成果を国内外の学会で報告する. また,本モデルは市場価格に応じて生産者が一方的に契約を放棄するものであり,生産者と買い手との間の公平な契約とはいえない.例えば,生産者により契約が放棄されれば,買い手は市場から高い価格で商品を購入しなければならず,買い手が原材料の上昇を小売価格に反映できない場合には経営圧迫となる.そのため,生産者だけでなく買い手に対しても意思決定の機会を認めた契約が望ましい.そこで,平成29年度以降に向けて,買い手が生産者の契約放棄の時期を延期するように再交渉を行なうことを認めた新たな契約モデルの構築に取り組む.本年度は,研究期間の最終年度であるため,上記を含む今後の研究課題の整理と次年度以降に向けた整備を行う予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度に必要な書籍の購入が計画より若干多額となったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
調査に必要な情報であったため、その分の購入費用を次年度減額して対応する。
|