研究課題/領域番号 |
15K01195
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
中島 義裕 大阪市立大学, 大学院経済学研究科, 教授 (40336798)
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研究分担者 |
森 直樹 大阪府立大学, 工学研究科, 准教授 (90295717)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アルゴリズム取引 / 高頻度トレード / HFT / 東証Arrows / 機械学習 |
研究実績の概要 |
東京証券取引所において、2010年にAroowheadが稼働し、それまで執行時間が2ないし3秒単位だったものが2ミリ秒へと大幅に短縮された。これに伴い、HFTと呼ばれる高頻度発注のアルゴリズム取引が増加したと報告されている。昨年度は、アルゴリズム取引が市場に与えた影響を調べるために、2007年と2012年のオーダーフローと株価を比較した。Arrowhead移行の影響に関する既存研究において、注文の小口化や注文頻度の上昇、流動性の向上(最良気配値の外側の価格への注文比率の上昇、価格インパクトの減少など)、大型株への注文の集中などが報告されている。上記の既存研究では、特定の銘柄を選択した上でなされたものが多い。我々は、既に開発済みのオーダーフロー分析ツールを改良し、東京証券取引所1部に上場している全ての銘柄を分析した。指値注文、成り行き注文、キャンセルなど、投資家が行った行動をトータルした「イベント数」を集計した結果、2007年と2012年の間で比較すると58%の銘柄のイベント数が上昇し、10倍以上増えた銘柄が22%に上ることがわかった。 更に、人間とアルゴリズム取引の反応速度の違いによる効果を調べる最初のステップとして、人間が認識できる範囲で株価変動の特徴を抽出できるか否かを検証するため2007年と2012年のソフトバンクの株価を分析した。1分足と4秒足のグラフを畳み込みニューラルネットを用い、4分割の交差検定を行った。その結果、訓練データでの判別率が100%だったのに対し、テストデータでの判別率は0.47と、判別できない場合の期待値である0.5に近い結果が得られた。これは、この枠組みにおいてアルゴリズム取引の株価変動への影響が見出されなかったことを意味する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度はアルゴリズム取引の影響を調べるための分析環境と実験環境を整え、その最初の分析結果を得ることが出来た。日経NEEDS社が提供するティックデータ(板の変動を示すデータ)から、オーダーフローを算出するツールを改良し、2007年と2012年のデータを比較する実験枠組みを完成させた。その最初の試みとして、イベント数の比較を行い東京証券取引所の全銘柄を対象に2年間のデータをすべて用いて分析を行った。また、反応速度の異なる投資行動(人間とアルゴリズム取引)が組み合わされることによる影響を調べるため、畳み込みニューラルネットワークを用いる実験環境を整えた。畳み込みニューラルネットワークを使用するための環境を整えるほか、GPUを利用するなど学習の高速化を実現する環境と、これらの実験を行うためのデータ構造の設計、データ加工に必要なツールを開発した。予備実験として2007年のソフトバンク(東証一部)、ガーラ(JASDAQ)、レカム(JASDAQ)の三銘柄を分析した。価格の1分足を交差検定したところ、訓練データの識別率は1.0であり、更にテストデータにおいても期待正答率(0.33)を大きく上回った(0.58)ことから、畳み込みニューラルネットワークにより、価格変動パターンの判別が可能であることが分かった。本実験として、先と同様の1分足に加え4秒足を用いてソフトバンクの2007年と2012年の価格変動を判別させたところ判別できなかった。 一方で、エージェント・ベース・シミュレーションによる株式市場の再現に関しては、既に開発済みである人工市場シミュレータ(U-Martシステム)のログデータを上記の実証データと同じフォーマットでシームレスに扱い、比較するツールを開発した。反応速度の異なるエージェントからなる市場の設計も行った。
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今後の研究の推進方策 |
実証分析についてはオーダーフローの分析を続ける。オーダーフローからアルゴリズム取引から出されたオーダーと、人間によるオーダーを判別する。既知のアルゴリズムから推測されるオーダーや2012年のデータ(オーダーにおけるアルゴリズム取引のシェアが40から50%と推測されている)と2007年のデータ(アルゴリズム取引のシェアがほぼ無視できる)との間である種の差分を計算し、アルゴリズム取引による注文を推計するなど、従来からのアプローチによる分析を行う。 一方で、畳み込みニューラルネットを始めとする機械学習による判別も同時に進める。現在は価格データしか扱えていないが、これを改良しオーダーフローも扱える環境を整える。また、ネットワーク構造や各種パラメータの調整を行うなど、この枠組みによる予備実験を重ねて実験環境の改良を行う。 上記の分析ツールをエージェント・ベース・シミュレーションの実験環境に組込み、実証分析と計算機実験を同時に行う環境も整える。現在作成している「反応時間の異なるエージェントの相互作用が与える影響」を調べるためのプログラムを用いて、シミュレーションを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
稼働予定のデータ管理及び大規模シミュレーションを実施するためのサーバ構築が年度末になったため、その管理運営を補助するための人件費が次年度に繰り越しになった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度4月より、サーバ保守及びデータ管理、実験補助を行う技術者を短期雇用にて雇用する。
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