研究課題/領域番号 |
15K01211
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研究機関 | 神奈川工科大学 |
研究代表者 |
八木 勲 神奈川工科大学, 情報学部, 准教授 (10457145)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 人工市場 / 分散投資規制 / エージェントベースシミュレーション / 金融市場 |
研究実績の概要 |
本年度は,前年度積み残しになっていた金融ショック伝播メカニズムの解明と,市場規制の1つである分散投資規制が発動されたときに金融ショック伝播が発生するかどうかを検証した.分散投資規制とは,投資信託の運用において,1つの資産への投資が過度に集中しないよう投資額を投資信託純資産の一定割合(通常10%)以下に制限する規制である. 本実験で使用した人工市場は2資産から構成されているが,分散投資規制が発動していない通常の市場においては金融ショック伝播そのものが発生しない,すなわち,一方の資産価値が急落し資産価格が急落したとしても,他方の資産価格に変化は生じないことがわかった.これはたとえ投資家エージェントが両資産に投資していたとしても,彼らが自主的なルールの下で分散投資しない限り,他方の資産価格に影響を与えることはないことを示唆している. 一方,分散投資規制が発動している市場においては金融ショック伝播が発生した.理由は次のとおりである.一方の資産の価値が急落し資産価格が急落することで投資家の純資産が大きく目減りする.すると純資産に対するもう一方の資産への投資額が相対的に上昇してしまう.そのため後者資産が分散投資規制違反となり売却しなければならなくなる.その結果,後者の資産は資産価値が下がっていないにもかかわらず,一時的に資産価格が下落してしまう. 以上の結果より,投資家が資産間の保有高のバランスと取るような分散投資取引を行うとき,金融ショック伝播が発生しうることがわかった.さらに,金融ショック伝播が発生した際,単独で資産価格が急落したとき同様,一時的に必要以上に下落するオーバーシュート現象が発生することも判明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度積み残していた金融ショック伝播メカニズムに関する調査を,今年度実施予定であった分散投資規制が市場に与える影響調査と絡めて行うことができた.そして本結果を論文誌に投稿ができたので概ね順調であると言える.
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今後の研究の推進方策 |
分散投資規制は本研究課題の初年度に初めて導入された新しい規制である.そのためかこれまでに得られた知見は,学会発表では金融実務家から高い関心を集めている.当初の計画では,いくつかの市場規制に対応した金融ショック伝播分析システムの開発を行う予定であったが,上記の理由から,分散投資規制にターゲットを絞った行きたいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年末に2本の英論文が投稿可能となったため,英文校正業者への校正依頼費,論文投稿費,および,採録された場合の論文掲載費を見積もったところ,本年度の使用残高から更に最大で30万円ほど不足しそうであったので,助成金の前倒し入金をお願いした.ところが,年明けに大病を患いしばらくの間投稿準備ができず,年度末にかけて1本だけ投稿した.そのため,予想外に多くの未使用額が発生してしまった.
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次年度使用額の使用計画 |
本年度の未使用額については,既に論文誌投稿作業を再開しているので順次消化可能である.翌年度分のうち前倒しして不足した分は,成果発表を地元周辺で行い出張旅費を圧縮することで対応する予定である.
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