研究課題
本年度は,金融ショック時に分散投資規制が市場に与える影響を,投資家の運用方針によってどのように異なるかを調査した.分散投資規制とは,投資信託の運用において,1つの資産への投資が過度に集中しないよう投資額を投資信託純資産の一定割合(通常10%)以下に制限する規制である.投資信託を構成するリスク資産の1つが金融ショックを発生したとき,投資信託を構成するリスク資産間に金融ショック伝播が発生することを発見したが,従来モデルでは投資家エージェントの投資法は普遍的な手法であり,現実の投資信託運用者の運用法とは異なっていた.そこで本年度は,現実の投資信託運用者の一般的な運用法を模倣した投資家エージェントモデルによる検証実験を行った.その結果,特定のリスク資産価値が急落したとき,それに連動して(資産価値は一定にもかかわらず)一時的に資産価格が下落するリスク資産がある一方で,(資産価値が一定にもかかわらず)一時的に資産価格が上昇するリスク資産が出現する可能性があることがわかった.原因を調査したところ次のような知見が得られた.投資信託の資産価値下落リスクを回避のため,資産価値が下落したリスク資産保有量を強制的に減らすと,保有するキャッシュが一時的に増えてしまう.しかし実世界では,運用成績を伸ばすためにキャッシュを長期間保有することは避けられているため,その時点でリターンが大きいリスク資産に再投資することが多い.その結果,リターンが大きいリスク資産の資産価格が上昇(プチバブル化)する可能性が秘められていることがわかった.さらに,上記以外にも,複数リスク資産に投資せずに個々のリスク資産のみに投資している投資家エージェントも取引に参加する環境の下で実験を行ったところ,すべての資産価格の変動が小さくなる可能性があることを発見した.
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IEICE Transactions on Information and Systems
巻: E100-D, 12 ページ: 2878-2887
doi.org/10.1587/transinf.2016AGP0003