研究課題/領域番号 |
15K01214
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
大石 尚子 龍谷大学, 政策学部, 准教授 (20725361)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ソーシャル・イノベーション / Europe2020 / インキュベーション / 欧州連合 / 食と農 / 地域イノベーション / 都市と農村 |
研究実績の概要 |
ソーシャル・イノベーション(以下SI)はEurope2020のキーコンセプトであり、SI推進政策は科学技術研究分野に限らず地域開発等多岐にわたる。欧州連合(以下EU)のSI政策が社会システム変革にいかに寄与し、SI醸成のエコシステムにつながるのか、を解明することは、持続可能な社会の実現のためには意義ある研究であるといえる。これまでの調査研究により、EU政策におけるSIの概念の捉え方や政策体系についての概観は把握することができた。また明らかにできたのは、持続可能な地域社会構築のためには、食の安全や環境保全など、人間生存に関わる根底的なシステムに関わるSIの醸成が求められていると言うことだ。技術革新と捉えられがちであったSI政策が、社会システムそのものの変革を目指すものとして地域政策で捉えられ始めている。 先進国で深刻化する高齢化と人口減少が齎す都市・農村の社会問題は共通する。そこでテーマとして重要視されているのは、人間と環境・社会すべてのシステムが複雑に絡むフードシステムの変革や都市・農村の関係性の再構築である。固定化されたシステムの脱構築に必要となるのは、人材の育成と流動化、そしてその最適配置である。実際にEUではフードセキュリティ・環境・農業分野を包括する部門を設けて研究プロジェクトを推進していた。 こうしたことを踏まえ本年度は、SI政策全体ではなく、ターゲットを地方の小都市や農村地域を担う人材の育成や起業支援政策に絞り、地域SI政策・研究者との交流・若者イノベーターへのインタビュー等を行った。住民・コムーネ・県・国・EU各レベルの政策の相互作用について調査したことによって日本の国・地方の関係性と比較することができた。また、他欧州諸国の研究者と日本との比較研究の議論に発展し、また、それらの知見を、日本の地方自治体政策へ還元し日本における地域イノベーションの実践に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の目的は、Europe2020のSI政策の全体像の把握し、持続可能な社会構築のためのSI醸成のエコシステムとは何か解明することであった。EU政策におけるSI概念とそれに基づく政策体系については概観をつかむことはできた。しかし、EU政策の中で、SI推進政策と名称づけになっている具体的な政策は研究政策にとどまり、具体的な名称としてとらえられるものではなかった。しかし、SIという概念で政策をとらえたならば、既存の農業・農村開発政策から技術革新までその分野は多岐にわたる。逆に、自治体政策に焦点を当てると人材育成や地域開発分野で多くのSI政策が施行されていることが分かった。また、民間のSI研究機関では、EU政策の事例研究としてSI研究が進められており、SI政策が何を指すかという明確な分類はなされていないことが分かった。 また、こうしたEU、自治体、財団への調査を進める中で、SI政策の事例として挙げられる中に、過疎化する農山村漁村におけるSI事例が多く、特に、これまで南北の地域格差が問題となってきたイタリア南部地域において、食・農・観光と若者人材の流動化をキーワードに農村開発が進んでいることがわった。特にプーリア州では、都市農村一体型での地域開発が進み、EUの財源、国・州・基礎自治体レベルでのSIと名称のつく政策が実施されていることを確認することができた。 そこで、3年目は計画を発展させ、地元研究者との交流・地域開発政策調査・若者イノベーターへのインタビュー調査を進めた。ここで得た知見は、日本の農村地域政策に応用可能であったため、滋賀県米原市の自治推進政策の一環として提案し、実際に市民協働プロジェクトの一環として推進活動を行ってきた。 SI政策という概念定義という重要課題があるが、SI推進のエコシステムの醸成に向けた研究ととらえるならば、当初の計画より進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は、国外研究員として調査を進めてきたイタリア南部プーリア州に滞在することとなるため、これまでに得たネットワークを活かし、欧州のSIの深化を、欧州レベルから地域レベルに渡って研究を進める。 まずは、課題に挙げたように、SI政策の定義を行う必要がある。そのために、これまでのSI理論に関する知見の整理と、SIを醸成する政策の分類をEU/国/地方レベルで行う。 また、2017年度、本研究と同時並行して、JSPS外国特別研究員との共同研究により、日本の地方都市における外国人労働者問題と地域コミュニティに与える影響について農村地域イノベーションの観点から研究を進めてきた。今後は、そこで得た知見や人的ネットワークも本研究に活かし、イタリア農業・農村政策と都市政策をクロスさせ、持続可能な社会実現に資する都市農村システムを考察したいと考えている。 国外研究期間は、プーリア州の州都バーリに拠点を置き、バーリ大学・バーリ工科大学・イタリア国立研究機関CNRの協力を仰ぎ、空間設計・都市計画・社会学・応用科学等の研究者・実践者と連携研究を進めていく。また、秋にトリノで実施するトリノ工科大学との国際会議において、日本と欧州のSI研究についての研究報告を行う。 このように研究機関・財団・自治体・EUとの密な関係を作りながら、研究成果を国際学会発表や論文執筆で社会に還元していくと同時に、日本の地域政策への応用・実践を進めていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究成果の集大成として、EU機関研究者やEU諸国の研究者を招聘し、イタリアの地域開発研究を推進する研究機関CNR、バーリ工科大学・トリノ大学・トリノ工科大学との国際会議を2018年度に開催することとなった。そこで研究発表を行うための調査と研究打合せ・国際会議の打合せを2018年度に実施する必要が生じたため。 使用計画としは、5月にバーリへ赴き、プーリア州及びバーリ市の食農SI政策について調査を行い、トリノにおける国際会議に関する研究打合せを実施するための旅費として使用する。
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