研究課題/領域番号 |
15K01227
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
今坂 智子 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 教務職員 (90193721)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 危機管理 / 化学兵器剤検知 |
研究実績の概要 |
1997 年に発効した化学兵器禁止条約(CWC)において、サリン、ソマン、VX などは最も危険な神経剤であると報告されている。昨年のシリア内戦においてサリンが使用され、多数の犠牲者を出したが、神経剤、催吐剤、催涙剤のような化学兵器使用の断定や種類の特定には時間を要するため、短時間で正確に検知する方法の開発が求められている。そこで、本研究では量子化学計算による理論研究と超短パルスレーザーイオン化質量分析の技術を基に、高感度で網羅的な化学兵器剤やその代謝物の同定を行うことを目的とする。
1.化学兵器剤の励起エネルギーとイオン化エネルギーの計算・・サリンやソマンなどの神経剤やその代謝物の電子状態の研究は少なく、励起、イオン化に最適なレーザー波長を予測する必要がある。いくつかの代謝物を誘導体化したものを対象に、予測を行ってみた。まず基底状態の最適化構造や振動数を密度汎関数法で求め、多配置性を導入した時間依存法を採用して、(0,0) 電子遷移エネルギーの励起エネルギーを求めた。次に1 電子を放出する際に必要なエネルギー、すなわちイオン化エネルギーを決定し、試料分子をイオン化するために用いるレーザー波長を予測した。
2.超短パルスレーザーを用いる質量分析・・現在までの予備的な検討により、サリンなどの神経剤は紫外、真空紫外域に吸収帯を持つことが予想される。また、その代謝物も神経剤と同様な分光学的性質をもつと予想される。そこで、紫外超短パルスレーザー(200, 267 nm)をイオン化光源とする質量分析計を用いて分析した。その結果、これらの化学兵器剤を分析できることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
化学兵器剤である神経剤の励起エネルギーとイオン化エネルギーの理論計算による予測については、量子化学計算プログラムを採用して、予備計算の後、九州大学情報基盤研究開発センターのスーパーコンピューターに接続して、密度汎関数レベルでの基底状態、励起状態、イオン分子のエネルギーを求め、試料分子をイオン化するために用いるレーザー波長を予測できた。 化学兵器剤のガスクロマトグラフ/多光子イオン化質量分析については、連携研究者や研究協力者が担当した。これらの化学物質の多くは極性が高く、直接加熱してガスクロマトグラフに導入することは困難である。そこで、誘導化試薬を用いて揮発性の化合物に変換し、267と200 nm のフェムト秒レーザーにより多光子イオン化質量分析した。その結果、一部の化学兵器剤についてはフェムト秒レーザーを用いることにより分子イオンを増大することができることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
神経剤やその代謝物の誘導体の励起エネルギーやイオン化エネルギーに関する計算について、予定通りに進めていく予定である。また、紫外域に吸収帯をもつ誘導体化試薬を用いて標識し、紫外フェムト秒レーザー、さらに安価な紫外ナノ秒レーザーを用いてイオン化する条件を理論予測する。 化学兵器剤が吸収帯をもつ真空紫外域の超短パルスレーザーを用いてガスクロマトグラフ/多光子イオン化質量分析する。現在、真空紫外フェムト秒レーザー(185 nm)を発生しているが、さらに発生効率の改善を図る。すでに真空紫外レーザー光を質量分析計に導入するインターフェースを製作しているが、今後、実際に質量分析に利用して、その有用性を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
「次年度使用額(B-A)」が「0」より大きい理由としては、国際会議による外国への旅費や物品費などが最初に見積もられた額より少なかったことなどが挙げられる。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度分の使用計画としては、当初予定していたものに加え、国際会議や国内学会へのより多くの参加を加える予定であり、実験用品やデータ処理、成果発表、アウトリーチ活動などをより充実させる費用に充てたい。
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