本研究の目的は、減災のための人間及びその集団の動作を精密に考慮できる避難シミュレーション法の確立であり,地震や津波,それに伴う原発事故など,大規模かつ複合的要因による災害における避難者の時空間行動予測にも広くかつ簡便に提供可能とする.この技術は一般住民の避難行動だけでなく,今後予定される廃炉作業において仮に放射能漏れなどの事故があった場合に作業者が安全に避難するための方策を精密に検討するためにも極めて重要な技術である. 昨年度の成果に基づき,今年度は原子力発電所建屋内での事故を想定し、各建屋内の放射能値を設定することで、作業員の被ばく量をシミュレーションすることとした.このため11階層の階段を持つ原子建屋,そこから中央制御室建屋,さらに離れた位置にタービン建屋を想定した.これまでの研究で仮定した線量分布モデルを用いて、まず原子炉建屋内線量を1.0mSv、同制御室建屋を0.04mSv、同タービン建屋内を0.01mSvとした.したがって事項発生時にはまず原子炉建屋内の作業員が制御室からタービン建屋へと避難することになる. シミュレーションの結果,原子炉建屋内における9階の作業員については避難中での被曝量は150mSvを超え,深刻とみなすべきレベルとなる.同建屋6階での作業員の被曝量は平均値としては150mSvを下回るが、その約半数程は、150mSvを超える.ついで中央制御室建屋内の作業員の被ばく量は概ね100mSv以下であり、この段階では深刻ではない.タービン建屋内の作業員の被ばく量も100mSv以下であり大きな問題はない.以上のように,昨年度までの基本モジュールを応用することで実際に近い環境での作業員被曝量を見積もることが可能である.今回判明した原子炉建屋での被曝量を低減するには,避難時間を小さくするための避難路を別途確保するなどの方策を講ずることが必要である.
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