研究課題
火山爆発現象の時間空間解像度を上げた復元を行う事により,爆発的噴火による噴出物の移動,堆積モデルを構築する事を目的に,歴史時代の水蒸気爆発の高解像度解明と,巨大爆発的噴火の定量化とを,二本の柱として,地質学的研究を行うことが本研究の課題である.平成27年度は主として歴史時代の水蒸気爆発事例の調査及び堆積物の解析を行う事を主眼にし,その結果を基に流動堆積モデルを構築することを目標にした.予定をした4火山噴火の内,入山規制が敷かれていた吾妻火山を除く3火山で調査が行われた.さらに,我々研究グループの先行研究の一部,蔵王火山1895年噴火堆積物関連の調査も行われた.蔵王火山では,最近約800年間に蔵王火山のお釜周辺で発生した,蔵王火山最新期の水蒸気爆発の発生頻度と各噴火の概要を,山形大学,伴教授を中心とした研究班による調査により明らかにすることができた.また,栗駒火山では,1944年水蒸気噴火の機構解明のために,当該噴出物の現地調査並びに噴火堆積物の分析・解析を茨城大学及び秋田大学で行った。秋田大学大場教授により,火山灰粒子の構成鉱物等に関する詳細な解析がなされ,火山体内部に発達した熱水系の構造と噴火の関係が解明できた。それによれば,1944年栗駒火山昭和湖噴火では,300m以深の基盤岩およびその下位に発達する深所熱水系の変質岩に由来する火山灰が放出されている事が判明し,それらの鉱物が示す温度は300℃以上という,深所高温熱水系由来であることが示された。大規模噴火については,主担当の長谷川准教授が,非常に活発な大規模噴火を経験しているニュージーランドのルアペフ火山の調査研究のため,1年間のニュージーランド現地研究を始め,既存の鳴子・鬼首火砕流噴出物のデータとの比較研究を開始した.
2: おおむね順調に進展している
吾妻火山の現地調査は入山規制のために平成27年度実施はできなかったが,蔵王火山の過去800年間の噴火履歴の解明とその堆積物が入手できたことは,予定外の大きな進展となっている.火山ごと,若干の遅れや進みの違いはあるものの,研究目的達成のために役立つと考えられる,予想外の進展も大規模噴火にも見られた.以上のことから,計画とは若干異なる進捗を見せているが,最終目的に向かっては順調に進んでいる,と判断される.
今後の研究計画は,当初計画の2年目以降と大幅に変更する必要はないと思われる.ただ,現地調査が不可能だった,あるいは不十分と思われる火山については今年度も現地調査を行っていく.また,歴史噴火に関する記載については,協力者によるデータの収集,解析は,今年度,集中的に進める必要がある.また,長谷川が担当する有珠2000年噴火堆積物の本格調査,検討は,彼が帰国後の来年度に繰り下がることになる.その前に,有珠を除く各火山のデータから,水蒸気爆発の移動,堆積機構を検討していくことになる.また,大規模噴火に関しては,今年度はニュージーランドにおいて長谷川がかなりの時間をかけて実地調査が可能となるうえ,すでに予備調査で得ている鳴子・鬼首火砕流噴出物のデータも整理しており,これらを比較検討し,大規模噴火についてのモデル検討も進めていくことが期待できる.各研究者とも,真摯かつ順調に研究を遂行している.学会やメール等でのデータ交換や情報交換を密に行い,着実に基礎データを充実させるとともに,モデル構築に向け,意見交換を活発に行っていくことが肝要と思われる.
初年度,吾妻火山の入山規制や有珠火山の入林許可申請の遅れなどにより,現地調査が予定していたほどに実施できなかったため,旅費の執行が少なくなったこと理由の一つである.できるだけ安価な宿を利用し,移動も許可を受けた私有車での移動により,旅費支出を抑制したことも大きいと思われる.歴史資料の解析(のための謝金)は,協力者との都合が合わず,今年度に実施することとなった.一方,機器類の購入に際しては,予想以上の値引きを得ることができた.
前年度実施できなかった項目については,今年度実施の予定はすでに立っており,当初計上とほぼ同様に順調に使用できる予定である.また,当初予定を超えて,本研究目的の遂行に役立つ知見が見えてきたことから,これにも有効に支出をし,目的達成を加速させていく所存である.
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Journal of Volcanology and Geothermal Research
巻: 304 ページ: 50-59
Journal of Petrology
巻: 56 ページ: 2257-2294