研究課題
本研究は水蒸気爆発の噴火特性,規模の解明と,大規模噴火の高解像度復元とを二つの柱として地質学的な研究を行っている.水蒸気爆発については,当初計画にあった蔵王,栗駒,吾妻の三火山に加え,東北日本弧の鳥海火山,北海道東部のアトサヌプリ火山,インドネシアのタンクバンパラフ火山の調査を行った.蔵王火山では,最近約800年間の御釜火口での噴火を対象に,7回の噴火フェーズを認定,うち5回は水蒸気噴火からマグマ噴火への推移が確認された,更に,水蒸気噴火噴出物の構成物解析で,熱水変質物が卓越するも,マグマ由来物質も含まれることが判明し,水蒸気爆発におけるマグマの役割の再検討が必要となった.栗駒火山では,1944年水蒸気噴火の文献調査と噴火推移の解明,該当噴出物の粒度分析を行い,沸騰水噴出の様な,湿性の類質火山灰の噴出が主要だった可能性が高い事が解った.さらに,最近6000年間の水蒸気噴火・マグマ水蒸気噴火の履歴精査とともに,異質火山灰粒子に含まれる変質鉱物種や岩石組織から,その起源深度,熱水系の進化,マグマ-熱水系相互作用の時間変遷を解明できた.東吾妻火山では,約6000年前,千年弱で形成された吾妻小富士の噴火層序を確定した.この噴火史を4フェーズに大別した上,マグマ噴火タイプの変遷におけるマグマ物性の変化を明らかにした.一方,大規模爆発的噴火解明については,鳴子鬼首カルデラの噴火については鳴子由来噴火堆積物の現地調査と岩石学的基礎データを出すことはほぼ終了し,現在鬼首カルデラ由来の火砕流堆積物の調査を進行中である.当初計画ではなかった,北海道南西部の有珠火山およびそれに先行形成された洞爺カルデラの爆発的噴火堆積物の調査を行い、それぞれの噴火活動の推移をまとめた。更に,北海道東部の摩周火山について、大規模噴火の詳細な層序を構築し代表的試料の粒度分析および構成物分析を行った.
2: おおむね順調に進展している
水蒸気爆発及びそれと関連したと思われるマグマ噴火との関係について:蔵王,栗駒,吾妻,アトサヌプリの各火山において,当該噴出物の調査研究を行った結果,各火山について最近1000ないし8000年間の高解像度噴火履歴を構築でき,複数回の活動期(フェーズ)が識別できた.この各フェーズについて,層相解析,岩石学的検討を進めてきたが,これを更に進めることで,多くの,様々なタイプの火山における,多様な水蒸気爆発の噴火推移,ならびにマグマ噴火との関連性を,今までにない解像度で解明できる展望が見えてきた.調査火山が若干変更になったが,それに代わりうる対象を選択,研究できている.例えば,インドネシアジャワ島のタンクバンパラフ火山の調査も遂行でき,新たなケーススタディーが可能となった.今まで集積できた基礎データを元に,岩石学的データを蓄積することで当初目的の達成に,ほぼ順調に近づいているといえる.大規模噴火について:鳴子・鬼首カルデラ由来火砕流について、噴火層序の再検討および採取試料の室内分析を行っており,鳴子カルデラ由来火砕流の現地調査と基礎的岩石学的検討はほぼ完了し,発生流動機構についてのモデルを出していく段階に入っている.また,鬼首カルデラ由来火砕流についての調査も予定通り進行している. さらに,当初計画にはなかった,完新世で国内最大規模の摩周火山における大規模噴火についても,その層序の確立ができた。また,北海道中央部の洞爺カルデラの活動について,爆発的噴火堆積物の調査から噴火活動の推移をまとめることができた.これらの研究は本研究目的達成に重要な基礎データをもたらすことになる.今後岩石学的データの蓄積は,水蒸気爆発の場合と同様に進めることができる.以上から,大規模噴火の研究についてもほぼ順調と評価できよう.
基本的には,今回さらに明らかになった課題の精査と,成果公表を中心に研究を進めていく予定である.蔵王火山を例にすると,過去800年間の水蒸気噴火の規模,発生頻度と発生タイミングはおよそ解明され,ごく小規模の水蒸気噴火はより頻度高く発生したらしいことが明らかになってきた.一方で、ある程度の大きさを持つ水蒸気噴火噴出物はマグマ性物質を含んでいることも明らかになり,従来,マグマが関与しないとされてきた,水蒸気噴火噴出物の噴出物量推定や構成物解析を進め、蔵王山御釜活動の水蒸気噴火の規模や特性の全容を明らかにする.鳥海山の高分解能層序については野外調査・化学分析を実施し、最新の調査成果を学会講演により公表する.タンクバンパラフ山の成果についてはデータをとりまとめ,査読付き論文として公表する.また、吾妻火山の歴史時代における水蒸気噴火機構の変遷,ならびに吾妻小富士形成におけるマグマ噴火と水蒸気爆発の関係については,本年度後半までにデータの獲得と成果公表を実施する.鳴子火山由来大規模火砕流の噴出流下のモデルを構築し,発表する.鬼首火山の大規模火砕流について、追加の調査と室内分析を行い、これらのデータを整理して公表する.摩周火山の大規模火砕流については,粒度分析や構成物分析の結果から、火砕流の発生・流動・堆積機構を明らかにし,公表する.十和田火山915年噴火・ケルート火山2014年噴火についても,野外調査・化学分析を実施し,最新の調査成果を学会講演により公表する.
旅費,消耗品を低く抑えることで,最終年度における旅費,調査費を確保した.このことにより,最終年度においても,必要な調査を遂行できることとなった.
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Chemical Geology
巻: 480 ページ: 28-34
Volcanoes, InTech
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地質学雑誌125周年特集号「水蒸気噴火」
地学雑誌
地質学雑誌
巻: 123 ページ: 269-281
org/10.5575/geosoc.2016.0051