研究課題
本研究では,粉体粒子群の運動に対するガスの効果や摩擦特性に関する理論や実験的研究をもとに従来の火砕流モデルを見直し,実際の火砕流堆積物の特徴と比較することで,火砕流の運動を特徴付ける物理量や流走・定置過程について理解を進めようとしている。本年度は引き続き九州の鬼界カルデラ起源の火砕流堆積物と姶良カルデラ起源の火砕流堆積物を対象に,代表的露頭において堆積構造や構成物の特徴について調査を行い,噴火堆積物のキャラクタリゼーションを進めた。また前年度から引き続き,実際に噴火現象が観測された国内外における火砕流(火砕物密度流)についても堆積物データを取得し,より規模の大きな火砕流の理解においても重要となる流れの物理量の推定や堆積ダイナミクス,噴火推移を解明する研究を進め,それらの一部を論文として公表した。鬼界カルデラの火砕流堆積物については,堆積構造と溶結度(堆積物の空隙率)との関係を明らかにするとともに,火砕物の冷却・溶結の数値モデルを用いて堆積物形成・定置の時間スケールを推定した。さらに詳細を詰める必要はあるが,これにより火砕流定置から次の現象が発生するまで数日以上の時間を要したことなど,噴火推移の時間スケールを具体的に議論できる道筋ができた。火砕流流走の数値モデルについては,クーロン型摩擦則に基づく二次元浅水流型数値モデルの改良作業や,数値モデルの妥当性を検証するための室内粉体流実験のコンパイル,粉体流の運動において重要となるパラ―メータや無次元数の調査,実験データの収集を進めた。
3: やや遅れている
火砕流堆積物の構造や粒度組成等についてのキャラクタリゼーションは,現地調査や文献調査により概ね順調に進んでいるといえる。またその過程の中で,堆積・溶結構造をもとに,数値モデルを併用して堆積物形成の時間スケールや噴火現象の推移に制約を与える研究も同時に進んだことについては一定の成果といえる。しかし,火砕流モデルの見直しについては,従来のモデルで用いている摩擦抵抗則とその導入条件の検討は進んだものの,ガスを含むことによる摩擦抵抗低減の効果や火砕流の停止条件については,モデルの妥当性についての検討が十分に進んだとは言えず,室内実験等の結果と比較しつつ今後さらに進めていく必要がある。
これまでに取得した火砕流堆積物の基礎データや従来の研究をもとに,対象としている大規模火砕流を生じた噴火の推移をできる限り明確にし,火砕流モデルを適用する際の初期条件や境界条件について引き続き検討を進める。また,浅水理論をもとにした火砕流モデルの妥当性については,室内での粉体流実験の再現や,単純な系での計算を試行しつつ検討する。地質学的に妥当と考えられるさまざまな初期条件のもとで数値シミュレーションを行い,堆積物の層厚分布(形状),最大到達距離,流速等物理量の変化について調べ,災害評価への応用を目指す。上記の研究とともに,浅水モデルでは表現できない火砕物粒子の挙動や堆積のダイナミクスついても,実際に観測された火砕流のデータやモデルをもとに考察を進める。
火砕流堆積物およびモデル化や実験に関する最新の知見についての情報交換をブレーズ・パスカル大学およびパリ地球物理研究所(仏)で実施予定であったが,双方の都合により延期したため。また,九州における火砕流堆積物の調査を予定通りに実施できなかったため。
火砕流堆積物およびモデル化や実験に関する情報交換をブレーズ・パスカル大学またはパリ地球物理研究所(仏)で行う予定であるが,場合によっては国際会議の際に実施することも視野に入れて調整する。また,未実施の九州での火砕流堆積物の調査を進める。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 3件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件)
Journal of Volcanology and Geothermal Research
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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