研究課題
大規模な火砕流の現象や堆積物にもとづくデータと,粉体粒子の運動におけるガスの効果や摩擦に関する理論・実験的研究に基づく知見とを比較することで,火砕流の運動を特徴付ける物理量や流走・定置プロセスの理解を深めようとしている。本年度は引き続き南九州の鬼界カルデラ起源の火砕流堆積物と姶良カルデラ起源の火砕流堆積物を対象に,堆積構造や構成物の特徴の調査,解析を進めた。また実際に火砕流・火砕サージが観測された国内外における小・中規模噴火についても地質調査を行い,堆積構造や構成物データを取得し,噴火の物理量や推移の解明,堆積物形成プロセスの研究を進めた。また7.3 ka鬼界カルデラ噴火により生じた溶結した火砕流堆積物の堆積構造と堆積物空隙率との関係を明らかにするための計測と解析も前年度から引き続き進めた。空隙を含む高温の粉体(火山灰)堆積物の冷却・溶結の物理化学モデルを応用し,堆積物層厚,初期温度,含水量(ガス量)等の条件に依存した溶結堆積物の形成プロセスの数値実験を試みた。これにより堆積物の密度プロファイル(溶結度バリエーション)と初期条件との関係を明らかにした。さらにこのモデルを実際の堆積物の構造形成の時間スケール推定に適用し,上記7.3 ka噴火における噴火ステージ1と2の間隔が数日から1週間以上である可能性を示した。一方,火砕流の流動に関してはクーロン型・マニング型摩擦則に基づく二次元火砕流数値モデルの改良,モデルの妥当性を検証するための天然の事例や室内粉体流実験との比較を進めた。
3: やや遅れている
火砕流堆積物の構造や粒度組成等のデータ取得,計測・解析は,フィールド調査をもとにさらに進める予定であったが,とくに秋季に海況不順が続いたことにより,予定していた南九州での複数回の調査を実施することができなかった。また取得データの解析等の作業も遅れた。火砕流数値モデルの改良においては,ガスを含むことによる流れ底面での摩擦抵抗低減の効果を調べる研究を十分に進めることができなかった。
これまでに取得した火砕流堆積物の基礎データをもとに,鬼界や姶良カルデラにおける大規模火砕流噴火の推移や火砕流の堆積・定置のプロセスの考察を進める。堆積物の溶結現象に関する研究については,より多くの条件で計算,解析を行うとともに実際の堆積物データと詳細に比較し,堆積物形成および噴火の時間スケール推定値の妥当性を検討する。また火砕流数値モデルを用いて,地質学的制約に基づく初期条件のもとでシミュレーションを実行する。実際の火砕流堆積物の分布等,観察事実の再現性について検討し,本研究を取りまとめる。
火砕流堆積物データ取得のため南九州鬼界カルデラ及び薩摩・大隅半島での地質調査を複数回予定していたが,台風によりフェリーが頻繁に決行したことや日程変更の調整がつかなかったために実施できなかった。それに伴い取得データの解析作業等も遅れたため,次年度使用額が生じた。使用計画は,上記未実施の南九州での地質調査を進めることと,研究の取りまとめを行うことである。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Journal of Volcanology and Geothermal Research
巻: 358 ページ: 87~104
10.1016/j.jvolgeores.2018.02.008
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1016/j.jvolgeores.2017.03.002
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巻: 347 ページ: 221~233
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地学雑誌
巻: 126 ページ: 1~13
月刊地球 号外
巻: 67 ページ: 99~106
GSJ 地質ニュース
巻: 6 ページ: 1~4