研究課題/領域番号 |
15K01247
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
寺田 暁彦 東京工業大学, 理学院, 講師 (00374215)
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研究分担者 |
石崎 泰男 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 准教授 (20272891)
吉本 充宏 山梨県富士山科学研究所, その他部局等, 研究員 (20334287)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 草津白根火山 / 水蒸気噴火 / 熱水系 / 土壌水銀放出率 |
研究実績の概要 |
草津白根火山の熱水循環系とマグマ供給システムの発達過程を明らかにするために,本年度は近年に水蒸気噴火を繰り返し起こしている白根火砕丘群について詳細な地質調査と噴出物の岩石学的解析を行った.白根火砕丘群を取り囲むように数地点で手掘りトレンチ調査を行い,噴火堆積物の間に挟在する黒土や材試料の年代を測定した結果,約10,000年前にはマグマ噴火による火砕丘群の形成が始まっており,約1100年前頃には既に水蒸気噴火の活動期に入っていたことが明らかになった.白根火砕丘群東麓では大規模トレンチ調査も行い,弓池マールからのサージ堆積物を始め計約20層の噴火堆積物が確認できるなどの成果を挙げることができたものの,黒土や材試料を採取できなかったため各噴火堆積物の年代決定には至らなかった.白根火砕丘群の活動初期に噴出した2枚の溶岩流についての岩石学的解析からは,各溶岩の成因にデイサイト質マグマと苦鉄質マグマの混合が重要な役割を果たしていることが明らかになるなど,マグマ供給システムの描像を行う上で重要な知見も得られた. このほか,熱水系流動経路や浅部地下構造を反映する土壌水銀放出率の測定を行うため,原子吸光法に基づく水銀測定装置を導入している.本年度は,さらに金アマルガム捕集ユニットを追加し,測定精度を大幅に改善させた.ただし,本装置は濃度を測定するものであり,従来提案されていた測定手法も経験的である.そこで,草津白根山で観測を行う前段階として,測定システムを数値モデル化し,計測条件を定量的に検討した.更に,本装置で測定された濃度から,当地における単位面積時間あたりの放出率へと換算する計算手順を定量的に示した.以上の結果に基づき,箱根火山において測定試験を行った.その結果,地熱域へ向かって水銀放出率が増加する様子が捉えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までの本白根火砕丘での調査に引き続き,本年度は白根火砕丘における地質調査を本格的に開始した.これにより山頂域と山麓域におけるテフラの対比が進んだこと,山麓域において複数の炭化物を見出して年代測定が実施できたことで,草津白根火山の活動履歴に対して時間軸が入りつつある.更に,重機を用いたトレンチ掘削調査により,これまで成因時期が不明であった弓池マールに関連するサージ堆積物を見出したことは特筆に値する成果である.弓池付近は観光地化されており,その活動履歴を解明することは,今後の火山防災計画策定にも大きく貢献するであろう. また,水蒸気噴火発生場に関係する熱水活動を捉えるための土壌水銀放出率測定についても,測定精度の大幅な向上がなされ,更に測定手法の数値的検討が進んだ.本年度は,浅部熱水流動が比較的よく分かっている箱根火山・大涌谷周辺で試験観測を行い,地熱活動の中心域へ向かって,土壌水銀放出率が増加してゆく様子が捉えられた.このような傾向は地中温度観測では認められず,浅部熱水活動を把握する手段としての有効性が示された. 以上の通り,研究計画は当初目的に沿って順調に進んでいる.一方で,草津白根火山の活動活発化による立ち入り規制が長引いており,本調査もいくつかの制約の元に実施されている.そのため,当初見込みよりもやや進捗が緩やかで,論文として取りまとめるための,こまやかなデータ収集がやや遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き完新世噴火履歴の解明を目的とした地質調査を,主に白根火砕丘を対象として行なう.特に弓池マール近傍においては,土壌の発達した地点でトレンチ調査を行なう.本調査により,平成28年度に見出されたサージ状堆積物の上下の土壌層の放射性炭素年代測定が実施できれば,従来まで不明であった弓池マールの形成年代が決定される.そのためには,トレンチ調査許可が得られるように掘削方法を工夫することや,掘削作業の安全確保施策をまとめる必要がある. 現在の地下浅部熱活動を評価するための水銀放出率計測手法については,平成28年度までに検討が終わっている.本年度は草津白根山の山体各所で測定を実施して,計測値を地図上に表現する.地質調査結果や各種地球物理学的な観測事実と併せて,草津白根火山における現在の浅部活動を描像する. これまでの研究成果は,将来起きると予測される火山活動の活発化,および噴火発生時に火山活動を理解するための貴重な基礎資料である.本年度後半にかけては,これまで得られた研究成果の取りまとめを終えて,査読付きの専門誌へ論文として投稿する.
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次年度使用額が生じた理由 |
掘削作業により,想定外に多くの層序を見出すことが出来た.その記載を優先ししたため,当初は山麓領域で予定していた試料採取が十分に実施できず,想定よりも分析試料が減少した.このため,試料分析に関わる消耗品代の支出が減じた.
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度であることから,試料採取を優先的に実施する.そのために,なるべく早い時期から地質調査を開始する.
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