研究課題/領域番号 |
15K01251
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
宮縁 育夫 熊本大学, 教育学部, 准教授 (30353874)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 斜面崩壊 / 土石流 / テフラ層序 / 歴史学的調査 / 災害発生履歴 / 火山 |
研究実績の概要 |
平成29年度は,阿蘇火山周辺域における過去の斜面災害について歴史資料等を精査し,その発生要因や発生地点の分布について検討した. 参考とした資料は『熊本県災異誌』や『八代地方の災害史年表(改訂増補版)』,『肥後近世史年表』等の歴史文献である.また,歴史文献に記載されていない年代の災害については熊本市立図書館所蔵の九州日日新聞や熊本日日新聞などを参照して災害史年表を作成し,阿蘇火山周辺域で過去に起こった斜面災害の概要を把握した. まず斜面災害発生時の降雨条件に関して,気象庁阿蘇山測候所で観測された雨量データを使用して解析した結果,日雨量が100 mm未満の場合は斜面崩壊が起こる可能性が低く,100 mm以上であれば斜面崩壊が起こる可能性が徐々に高くなる傾向が認められた.また,最大時間雨量については10 mm以下では斜面崩壊が起こりにくいことが明らかになった.しかし,このデータでは斜面崩壊の発生地点と雨量の観測地点が離れているという問題があったため,より多くの観測地点の降雨データがある2001年6月と2012年7月の災害時の状況について検討した結果,総雨量が200 mm以上の場合では斜面崩壊が起こる可能性が高くなり,400 mm以上になるとほぼ確実に発生していることが判明した. 歴史記録から得られた発生地点の分布を考察した結果,崩壊の起こっている地点の周辺地域では斜面災害が何度も繰り返し起こっていること,さらに地域的には阿蘇カルデラの北東部で斜面崩壊の発生頻度が高いことが明らかになった.斜面崩壊が多発している地域のカルデラ壁はAso-1およびAso-2火砕流堆積物からなる急崖斜面やその下位に巨礫が混在する不安定な崖錐斜面を有しているなどの地質学的特徴が認められ,こうしたことが斜面崩壊発生と密接に関係していると推察された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
歴史文書等による調査はおおむね順調に進展したが,現地調査については平成28年熊本地震による道路の寸断や安全上の問題から,調査地への立入や調査が実施できない状況が続いている.
|
今後の研究の推進方策 |
熊本地震によって甚大な被害が生じた阿蘇火山周辺域では道路網が復旧してきており,場所によっては現地調査が可能な状況になりつつある.したがって,次年度は現地調査に基づく過去の斜面災害発生頻度の検討とともに,調査斜面の記載・観察・試料採取を実施して各種分析を行う.また,古文書調査などの歴史学的調査も継続して実施する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成28年熊本地震による被害や安全上の問題から,阿蘇火山での現地調査の実施が難しい状況となり,研究を十分に進めることができなかった.地層の年代や過去の土砂災害発生履歴を高精度に把握するために放射性炭素年代測定を実施する予定であったが,現地調査が十分に行えなかったため,試料が得られず,分析を依頼することができなかった. 熊本地震によって甚大な被害が生じた阿蘇火山周辺域では道路網が復旧してきており,現地調査が可能な状況になりつつある.次年度には本研究の目的を達成するために必要な放射性炭素年代測定用試料の発見に努めるとともに,研究補助による古文書調査などの歴史学的調査も行って,阿蘇火山周辺域における土砂災害発生履歴の解明を進める.
|